2020年11月18日付でプレジデントオンラインに「東京女子医大のブランド力失墜で「早大医学部」誕生の現実味」という記事が掲載された。
全体といて医療ミスや学費値上げによる大学への批判であるが、この手の記事によくあるのが中途半端に財務情報を引き合いに出し経営危機であることを煽るやり方だ。
一つ一つ見ていきたい。

…こうした事故や不祥事の影響を受け、経営的にもボロボロな状態だ。2016~18年度は3年連続赤字で18年度は22億円の赤字。2020年のコロナ禍で経営状況はさらに厳しいものとなった。7月に「ボーナスなし」と発表したことを…

とあるが、この赤字が事業収支上か資金収支上かで変わってくる。
さらに「18年度は22億円の赤字」とあるが、正しくは「平成28年度に22億円の赤字」だ。
おそらく著者は、財政危機であることを引き合いに出したいと思いネットで検索。一番上に表示される週刊現代の記事「赤字22億円!名門・東京女子医大が「危機的状況」に陥っていた」の中の「平成28年に22億円の赤字」を2018年と読み違えたのだろうか。
ついでにいうと、3年連続赤字ではなく「基本金組入前当年度収支差額」は2018年度は4009百万円もの黒字だ。果たして著者が言うように、経営がボロボロの状態だろうか。 さらにこう続ける。
女子医大は今回の「学費1200万円値上げ」で短期的な経営状態は改善するかもしれないが、大学関係者によれば来年度の受験者数は減って、受験料収入は減り…

まず、学費値上げで経営状態は短期的ではなく長期的に改善するのだ。なぜなら将来にわたって6ヶ年分安定的に収容定員×人数分の学費が入ってくるからだ。 また、受験料収入は減る、とあるが、同大学の教育活動収入に占める手数料収入の割合は僅か0.2%だ。どう考えても、受験料収入など誤差にしかならず、それより同割合5%の学納金の方が重要である。
学費値上げで受験者数は減るので学生の質は下がってしまうだろうが、要するにお金をとるか学生の質をとるかの問題だ。

近年、ファクトチェックというのが重要視されているらしい。
ファクトチェックとは「社会に広がっている情報・ニュースや言説が事実に基づいているかどうかを調べ、そのプロセスを記事化して、正確な情報を人々と共有する」ものである。
学校法人に関する財務のファクトチェック、いくらでも請け負いますよ!

まとめ

  • 専門外の人が書く財務に関する指摘は大抵雰囲気で語っている

日本医科大学。歴史は深く、慶應義塾大学医学部、東京慈恵会医科大学と共に、私立医大御三家と称されるそうだ。 

直近2020年3月の貸借対照表上で、35000百万円もの長期借入金、14000百万円もの短期借入金がある。 これはヤバい状態なのか。同大学の運用資金は現預金8400百万円、特定資産58百万円で運用資金を大きく上回る借り入れをおこなっている。


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固定負債比率(固定負債の総負債+純資産に占める割合)は43%と、全国平均8~10%を大きく上回る。借入をし施設設備投資することが学生募集や教育研究上にとって良いとも言えるが、同法人の手元資金を見る限り、過度な借入のような印象を受ける。そして毎年、借入金に対する利息返済支出で500〜600百万円ほど計上している。

では、なぜこれほどまでに借り入れができて、何に使っているのか。
教育活動収支差額(本業)は8225百万円の黒字。ここ数年はこの数値に近い大幅な黒字を出している。中身を見てみると、それを支えるのは収入の8割を占める医療収入(8486百万円!)だ。 

しかし、だ。本業から飛び出して、施設設備等活動による収支は5100百万円もの赤字。2018年頃から、毎年5000百万円ほどの赤字を出している。通常の施設設備投資をしていれば赤字が出るのは仕方ないことだが、それにしても赤字幅が大きすぎるしこの財務状態でやることだろうか。学校法人は永続的な活動と学生の学修機会確保のため、財務の健全性を強く求めている。


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そして、事業報告書には包み隠さず借り入れ残高・利息支出の経年変化を公表している。
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借入金は一番多い時で平成27年の65400百万円。平成22年の借り入れ利息は900百万円近くも支払っていた。こりゃ貸し手にとって優良顧客、要するにこれだけ借り入れできる信用力があるということだ。

だが、現預金
8400百万円、特定資産僅か58百万円と積み立てをほとんどしていない状態で、このような設備投資は果たして妥当なのか?

病院を持つ大学で医学部の地位も盤石なので、急に崩れることは考えられない。しかしこの自転車操業的な経営は、学校法人にしてはいささか不安なやり方である。


まとめ

  • 日本医科大学は固定負債比率が43%と、全国平均8〜10%を大きく上回る。
  • 医療収入を柱として毎年大きく黒字を出しているので問題はないが、積み立てをしていないので不安 
  • めちゃくちゃ借金してめちゃくちゃ設備投資をしているが、本業の稼ぎの良さで借金は徐々に返してはいる。


平成音楽大学は熊本県所在の、音楽単科大学。九州で唯一の「音楽単科大学」と称し、音楽学部のみで奮闘。しかし、収容定員充足率は51.3%と危機的な状況。それに伴い、財務も悪化。教育活動収支差額(本業での収支)は平成22年以来、ずっと赤字というミラクルを達成。

その大学が、ついにレッドゾーンに突入している。主に2019年度決算から、財務を紐解いていきたい。


充足率5割で財務状況は大丈夫なのか

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平成音楽大学HP「事業実績・財務データ」より https://www.heisei-music.ac.jp/information-disclosure.html 

明浄学院の場合もそうであったが、危機的な状態であっても平気で経年で分かりやすく財務状態を晒す。いったいどういう意図なのだろうか。
まず、流動資産を見ていくと、2015年の587百万円から2019年には169百万円に激減。2018年に1417百万円となっているが、これは熊本地震による罹災に対する一時的な収入なので、後述する。

流動資産の多くは現預金だと思われるが、そのほかに手元資金はあるのかを貸借対照表で見ていく。
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運用資金は特定資産168百万円と流動資産169百万円。おおよそ300百万円が運用資金となる。資金収支上、2019年度は45百万円のキャッシュ減(赤字)だ。単純に、この赤字が6年続けば資金がショートしてしまう。猶予期間は10年とない状態だ。


赤字でも校舎改築!起死回生の設備投資

このような学生も集められない財務が危機的な状態にある大学が、2017年から大型の建物の建て替えを行なっている。 同大学は2016年の熊本地震により被災。学舎がほとんど使えなくなるなど、甚大な被害を受けた。2017年〜2019年にかけて校舎等を新築。原資は熊本県からの「災害復旧費補助金」の1347百万円借入金」。平成30年決算でこの補助金と借入金200百万円に対し、1747百万円の施設関係支出を計上。

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どうせ学生が入らないのだから、最小限の施設で良いかと思うのだが、そこは平成22年からずっと赤字を出してきた大学だけあって、発想が違う。


では、これらの校舎に対する設備投資で入学者数は増えたのか。平成30年度入学者は定員100名に対し入学者47名。令和元年度は55名。令和2年度は46名と相変わらず低調。 97BD4A51-37A3-4C58-B93D-8F5345F085EF
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全く投資に見合った学生数増加は達成できていない。新入生は、豪奢な建物で本来の2分の1の人数で使えるのだからある意味お得であるが・・・。 豪華な設備は維持費もかかるので、将来的にこれが足を引っ張るのは目に見えている。

また、この大学はご丁寧にも各種財務指標の経年も掲載している。特に着目したいのは「運用資産余裕比率」だ。これは、運用資産から外部負債(借入金等)を差し引いた金額を、事業活動収支の経常支出で割った数値である。つまり、学校法人の一年間の経常的な支出に対してどの程度の運用資産が蓄積されているかを表す指標である。
平成27年度の184%から、令和元年度には▲27%までに減少。つまり、1年間の経常的な支出を賄えるほどの運用資産が無いことを示しており、非常に危険な状態だ。

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まとめ

  • 大学は平成22年以来ずっと教育活動収支差額(本業)で赤字を出し続けている
  • 熊本地震で被災。学舎がほぼ使えなくなるが、熊本県の補助金により校舎を一新
  • 校舎一新により起死回生を図るが、相変わらず収容定員充足率が5割程度
  • 毎年数千万円の赤字に対し、直近の手元資金は300百万円ほど。また、校舎建て替えに伴う大幅借入れにより財務はさらに悪化することが予想される。

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