エリザベト音楽大学という大学をご存じだろうか。僕は知らない(なかった)。
1947年のエリザベト音楽教室を母体とし、1963年に大学設置がなされた。場所は広島県広島市中区で、近くには広島城や県庁、原爆ドームがあり、立地は良い。
だが、学生集めには苦戦している。2017年に学部収容定員充足率69.1%、2018年71.9%、2019年68.1%、2020年72.8%とずっと充足できずにいる。
そんな大学、絶対財務もヤバイじゃないですかというのが今までの流れであるが、ここは違う。まずは貸借対照表を見てみよう。
「運用資産対教育活動資金収支差額比」という指標がある。これは「教育活動資金収支(本業の収支)がマイナスの場合、それを何年賄える貯蓄があるか」というものだ。同大学は2019年度決算において、181百万円もの教育資金収支赤字を出しているが、それを賄うための運用資金はおよそ57年分ある。57年間同じ赤字に耐えうる貯蓄があるということだ(流動資産における有価証券の額がわからなかったため、少なく見積もっている)。
※エリザベト音楽大学HP「財務状況」より
http://www.eum.ac.jp/about/information_disclosure/finance/
それもそのはず、この大学は10000百万円もの特定資産があるのだ。地方の大学、特に音楽の単科大学でこの特定資産の額はよくやっていると思う。
特定資産は将来の建物更新や退職金等支出を目的とした貯蓄だが、これをうまく運用しているかいないかで、大きな差が出る。
ただ特定資産を積み立てているだけではない。この特定資産を運用し、2019年度は490百万円もの受取利息・配当金収入を計上。同大学の学納金収入が414百万円だから、それを上回る額だ。全体の収入のおよそ17%であるから、大きな収入源だ。
これにより、教育活動資金収支(本業)はマイナスが出ても、全体としては僅かながら黒字を出している。
2015年からの教育活動資金収支(+全体の資金収支)を見てみよう。
2015年▲199百万円(+225百万円)、
2016年▲119百万円(▲381百万円)、
2017年▲154百万円(▲55百万円)、
2018年▲216百万円(+38百万円)、
2019年▲181百万円(+11百万円)。
これらを見てわかるように、本業でのマイナスを本業外でうまくカバーしている。そして特定資産などの積み立ても大きく崩さず、わずかながら増やしている。当然無借金経営だ。
財務危機がないため、定員未充足でも極端な人件費カットや施設売却が伴わない状態だ(若干教員人件費がじわじわ下がっているようだが)。
広島という地方でありながら、学生集めに苦戦しながらも経営は安泰。少子化時代において大学の本業は儲からないということを見越し、しっかり積立を行い全体の収支を崩れないようにする。そして安易に収容定員減を行わず、教育の質も担保している。 これは、少子化時代における本来の定員割れ大学の在り方だが、これをできているところはほんとどない。少しは見習ってほしいものだ。
まとめ
- 本業はずっと赤字であるが、本業外の資産運用等でカバー
- 特定資産が潤沢にあるため、赤字だからといって財務に直ちに影響なし
- 過去の財産をしっかり守り、無駄な施設等投資をせず堅実経営