音楽単科大学で頑張っている全国12大学。その財務健全性を測るため、4つの指標で5段階評価・点数化を行いランク付けをした。
ていく指標は①「運用資産余裕比率」②「経常収支差額比率(3か年)」③「固定負債構成比率」④「学部収容定員充足率(3か年)」の4つだ。
本当はもっと指標を加えたいところだが、非公表な数値があったりするのでこの4つで測っていく。最後に、この4指標の点数を集計し、ABCDEでランク付けを行った。
各指標の数値は客観的なものであるが、ランク付けは主観が入っているのはご了承いただきたい。各評価の説明は以下のとおり。

A:極めて良好な状態
B:良好な状態
C:平均並み
D:不良な状態
E:極めて不良な状態

良好や不良といった評価は、芸術系学部・音楽学部という視点から、私学事業団が発行している財務データ「今日の私学財政」の全国平(2018年度決算)を参考につけていった。




運用資産余裕比率

運用資産余裕比率は運用資産(現預金・特定資産等)から外部負債(借入金等)を差し引いた金額が、経常支出の何倍かを示す指標。要するに、経常的な支出(教育活動支出と活動外支出)に見合った貯蓄を行い過度な借金をしていないかを見る指標だ。経常支出に対して「何年分の純運用資産があるのか」といった見方だ。
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1位は堂々のエリザベト音楽大学。唯一の2ケタ台で、突出している。エリザベト音楽大学は事業規模が小さい(経常収入が少ない)割に、しっかりと積立ができており無借金経営のため、他の大学を大きく引き離した。身の丈にあった支出をしている一方できちんと貯蓄もしているというわけだ。
逆に平成音楽大学は同じく事業規模の小さい大学であるが毎年経常収支は赤字。収容定員充足率の低さもそうであるが、それ以外の収支も赤字続きのうえ積立も不足しているためこの結果に。新校舎建て替えにあたり借入したのも財務にネガティブな影響を与えた。
意外だったのが東京音楽大学。運用資産が少ないということもあるが、それに加え11,000百万円もの借入金が尾を引いている。どうやら2015年から設備投資に伴う大型の借り入れを行っているようだ。

経常収支差額比率(3か年)

経常収支差額比率は経常的な収支(資産売却など臨時的な要素を除いたもの)に着目した指標だ。プラスが大きいほど収支の安定を示し、マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。
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1位はまたもやエリザベト音楽大学。実はこの大学、教育活動収支は赤字が続いているのだが、特定資産で運用していると思われる配当益で、教育外収入として大きく稼いで経常収支を黒字にさせている。
経常収支が赤字のところが多いことからわかるように、音楽の単科大学で教育活動収支の黒字を出すのは困難なことなのだ(経常収支のほとんどは教育活動収支で決まる)。逆に言うと、名古屋音大、洗足音大、桐朋学園は教育活動収支のみで黒字を出しているため、本当の意味で本業の力が強い大学と言える。
最下位は東邦音楽大学。先にみたように積み立てはそこそこできているが、いかんせん経常収支で赤字を出しまくっている。後述するが、収容定員を6割切っているのが痛い。

固定負債構成比率

固定負債構成比率は固定負債の「総負債及び純資産の合計額」に占める構成割合で、主に長期的な債務の状況を評価するものだ。想定される固定負債として長期借入金と退職給与引当金が想定される。ここでは特に長期借入金に着目する。
借入の多さは直ちにネガティブな影響を及ぼさないが、こと音楽大学に関しては今後の市場・事業規模縮小が予想されるため、設備投資などの借り入れは今やるべきことではないと考えている。①の指標も借入が大きく影響を与えるため、大きく借入をしている東京音楽大学は不利となるが、あえてこの指標を入れた。
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1位は洗足学園音楽大学。先にみたように貯蓄も経常収支も安定しており、そもそも借入などする必要もない。
この指標はどの大学も安定して全国平均以下であったが、問題は東京音楽大学。創立111周年記念というなんとも中途半端な周年事業の際に、「中目黒・代官山キャンパス」を設立。



確かにすんげえキャンパスだ。この設備投資が吉と出るか凶と出るか。というか、経常収支は安定してないし貯蓄も少ないんだし、施設設備投資は控えるべきだと思うけどね。
本当はE評価としたいところだが、借入の内容が教育施設に対するもの、充足率を十分に満たし積極投資であることを加味しD評価に。

学部収容定員充足率(3か年)

最近どの大学も苦労している学部収容定員充足率。少子化の今、事業規模のレベルは適切にするべきだ。収容定員は事務的な手続きで下げることができても、人件費や施設設備は簡単にカットできない。カットするには大変な労力と時間がかかるのだ。それらを踏まえ、定員充足ができていない場合は、財務が安定している間にゆるやかに適正水準にしておく必要がある。財務がひっ迫している状態で急いで行っても、時すでに遅しなのだ。
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充足率第1位は堂々の東京音楽大学、学生数も1,383名となっている。これほど安定的に充足できているからこそ、積極的な借入と設備投資、という発想になるのだろう。これからどうなるかわからないが。
最下位は大学部門を閉じる予定の上野学園大学。下から2番目の平成音楽大学は立地が熊本ということもあり、今後も厳しい数値が予想される。新校舎設立で起死回生を狙ったが、泣かず飛ばす。収容定員400名に対し、なんと在学者205名という状態。ちなみに音楽大学と称しながらコッソリ子ども学科もある。こちらは充足率6割なのだが、肝心の音楽学科で42%と低調なのだ。


まとめ(総合ランキング)

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総合1位は洗足学園音楽大学。正直この大学、集計を始めるまで読み方がわからなかった。「せんぞく」と読むらしい。キリストの言葉「足洗えばなんちゃらかんちゃら」みたいなものから命名したようだ。充足率も貯蓄も経常収支も全てにおいて良好な状況であった。一つ注文するとすれば、これからも貯蓄を十分に行い死角の無いようにしたほうが良い。
2位のエリザベト音楽大学は洗足学園よりも尖った財務の好調さを見せたが充足率に問題あり。このまま充足しない状態で教育活動で赤字を出しながら教育外で収支を保つか、迷いどころ。いずれにせよ、十分な貯蓄があるため考える期間はいっぱいある。
逆に音楽オンチの僕でも良く聞く国立音楽大学・武蔵野音楽大学・昭和音楽大学は平均並みであった。いずれも貯蓄はそこそこできているのだが、いかんせん経常収支が安定せず。特に武蔵野音楽大学と国立音楽大学は定員を充足するのが専らの課題となる。
意外だったのが東京音楽大学。積極的な借入・設備投資が財務状況を悪化させている。定員を充足させているため投資は効果的と言えるが、経常収支で赤字を出し続けているので少しやりすぎ感。今後は収支の均衡を保ちながら貯蓄を行う必要がある(借金も返さないといけない)。点数は他のD評価大学より下だが、充足率を見るとかなり救いようがある。
落第生は上野学園大学と平成音楽大学。どちらもヤバイ大学として既に取り上げたため、結果は推して知るべし。特に平成音楽大学は全体的に問題を抱え、熊本という所在地がとどめを刺している。




概して、どの大学も全国平均と比べると苦戦しているようだ。特に、経常収支が赤字続きで定員を充足していないところが辛い。今後は音楽大学の定員・事業規模の縮小は必至だ。 集計していて感じたが、安定的な教育を行うには健全な財務が必要だということだ。エリザベト音楽大学は、定員も充足していないし教育活動収支も赤字だが、貯蓄をしっかり行い教育外で稼ぎ全体として健全な財務体制となっている。
逆に両方ともダメなところは、無理な資産売却や定員縮小・人件費削減を行い、それらが教育活動にも支障を来してしまっている。 それほど、財務と教育というのは密接に関係しているのだ。
今までは放っておいても学生が集まっていた時代であったから意識されなかった財務。これからの時代は、より重点的に見定める必要がある。なぜなら、潰れる大学はサービスの質が悪くて潰れているわけではない。財務が悪化し結果として潰れるのだ。大学が閉学に追い込まれ損を被るのは学生であり教職員だ。これ以上不幸な大学が1つでも減るように、厳しくチェックしていく。

こんな感じで進めた今回のランキング企画。各大学の財務資料PDFをひたすらコピペしていって計算したので、非常に疲れた・・・。
次はどこのカテゴリでランク付けしようかな。