カテゴリ: 音楽大学

音楽単科大学で頑張っている全国12大学。その財務健全性を測るため、4つの指標で5段階評価・点数化を行いランク付けをした。
ていく指標は①「運用資産余裕比率」②「経常収支差額比率(3か年)」③「固定負債構成比率」④「学部収容定員充足率」の4つだ。
本当はもっと指標を加えたいところだが、非公表な数値があったりするのでこの4つで測っていく。最後に、この4指標の点数を集計し、ABCDEでランク付けを行った。
各指標の数値は客観的なものであるが、ランク付けは主観が入っているのはご了承いただきたい。各評価の説明は以下のとおり。

A:極めて良好な状態
B:良好な状態
C:平均並み
D:不良な状態
E:極めて不良な状態

良好や不良といった評価は、私学事業団が発行している財務データ「今日の私学財政」の全国平均(2022年度決算)を参考につけていった。なお、各大学の財務数値は2023年度決算、充足率は2024年度の学生数だ。また、今回はこんな音楽大学不遇の中、福岡県太宰府市に新規の音楽大学を設置しようと目論む高木学園(福岡国際音楽大学を設置予定)の財務も参考として掲載した。ここは専門学校や他の設置大学含めたものなので、性質は違うがあくまで参考までに。




運用資産余裕比率

運用資産余裕比率は運用資産(現預金・特定資産等)から外部負債(借入金等)を差し引いた金額が、経常支出の何倍かを示す指標。
要するに、経常的な支出(教育活動支出と活動外支出)に見合った貯蓄を行い過度な借金をしていないかを見る指標だ。経常支出に対して「何年分の純運用資産があるのか」といった見方だ。
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1位は前回に引き続き堂々のエリザベト音楽大学。唯一の2ケタ台で、突出している。エリザベト音楽大学は事業規模が小さい(経常収入が少ない)割に、しっかりと積立ができているため、他の大学を大きく引き離した。身の丈にあった支出をしている一方できちんと貯蓄もしているというわけだ。ただ、ここまでいくと貯蓄しすぎ(投資しなさすぎ)感もある。後に記載するが、収容定員充足率が芳しくなく、将来への不安の裏返しともとれる。
8位の名古屋音楽大学は前回5位から8位にダウン。同比率も1.6年から半分の0.8年に落ちている。これは、系列校の名古屋造形大学の移転に伴い、2021年に名古屋公園キャンパス建築費73億円の計上が主因。ややこしいが、計算書類は一緒になったものとなる(だから厳密にいうと単科大学の比較ではない)。
前回11位の上野学園、12位の東京音楽大学は前回と順位変わらず。東京音楽大学は前回の同比率が▲1.2年から▲0.2年になっていることから、改善はしているが、やはりマイナス(運用資産より外部負債の方が多い状態)。前回集計時には約110億円だった借入金は、2023年度末時点で約90憶円とそれほど減っていない。ただ、48億円程あった経常支出は44億円に抑える等、適正規模の努力は伺える。

経常収支差額比率(3か年)

経常収支差額比率は経常的な収支(資産売却など臨時的な要素を除いたもの)に着目した指標だ。プラスが大きいほど収支の安定を示し、マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。2021~2023年度の3カ年の平均を集計した。
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1位はまたもやエリザベト音楽大学。実はこの大学、教育活動収支(本業)は赤字が続いているのだが、特定資産で運用していると思われる配当益で、教育外収入として大きく稼いで経常収支を黒字にさせている。資産運用で本業の赤字をカバーしているということだ
経常収支が赤字のところが多いことからわかるように、音楽の単科大学で教育活動収支の黒字を出すのは困難なことなのだ(経常収支はほぼ教育活動収支で決まる)。逆に言うと、名古屋音大、洗足音大は教育活動収支のみで黒字を出しているが、これは系列校の力が大きいと推察される(洗足は単体でも黒字かな?)。
最下位は上野学園短期大学。2021年度に大学部門を閉じ、その後事業規模縮小を進めるが減収減益のままで極端な赤字が続く。大学部門は2023年度時点でまだ在学生がいるため、簡単に閉じられないのが大学募集停止の怖いところ。もちろん、人件費もその分嵩む
しかし、12学校法人中9法人が経常収支赤字はかなりインパクトが大きい。二極化は益々続く。


固定負債構成比率

固定負債構成比率は固定負債の「総負債及び純資産の合計額」に占める構成割合で、主に長期的な債務の状況を評価するものだ。想定される固定負債として長期借入金と退職給与引当金が想定される。ここでは特に長期借入金に着目する。
借入の多さは直ちにネガティブな影響を及ぼさないが、こと音楽大学に関しては今後の市場・事業規模縮小が予想されるため、設備投資などの借り入れは慎重にならざるを得ない。①の指標も借入が大きく影響を与えるため、大きく借入をしている東京音楽大学は不利となるが、あえてこの指標を入れた。
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1位は前回同様、洗足学園音楽大学。先ほどみたように貯蓄も経常収支も安定しており、そもそも借入などする必要もない。
東京音楽大学は前回も最下位。前回は新規キャンパス等で積極投資していることを伝えたが、その後の施設設備投資は抑え気味。前回、33%だった同比率は10ポイント減少し、23.1%にまで改善したが、それでも高い。

学部収容定員充足率

最近どの大学も苦労している学部収容定員充足率。少子化の今、事業規模レベルは適正にするべきだ。収容定員は事務的な手続きで下げることができても、人件費や施設設備は簡単にカットできない。カットするには大変な労力と時間がかかるのだ。それらを踏まえ、定員充足ができていない場合は、財務が安定している間にゆるやかに適正水準にしておく必要がある。財務がひっ迫している状態で急いで行っても、時すでに遅しなのだ。
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充足率第1位は前回2位だった洗足学園音楽大学。2019年度には68億円だった学納金収入が2023年度には74億円に。同大学は2019年度に音楽学部の入学定員を470名から530名、2023年度には590名に増加。なお、在籍者2,728名の約15%に当たる427名もの外国人留学生がおり、ほとんどが中国からの留学生で、中国人スタッフも常駐しているそうだ(大学ポートレート参照)。大学院のみで見ると、収容定員128名に対し、126名が外国人留学生。これ、皆さんはどう見ますか?
8位の桐朋学園大学は前回4位から大きく下げた。直近の入学者数は112名で、2021年度の160名から右肩下がりである。
収容定員充足率は高等教育の修学支援新制度の機関要件に含まれているので、今後も定員規模縮小が見込まれる。


まとめ(総合ランキング)

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総合1位は昨年に引き続き、洗足学園音楽大学。経常収支、運用資産余裕比率共にエリザベト音楽大学に後れをとったが、収容定員充足率で差をつけた。日本人のみでも充足できると思うが、ここまで外国人留学生に拘るのは、先を見据えての一手か。
2位のエリザベト音楽大学は昨年度と同じく、財務は十分であるが充足率に難あり。今後も機関要件に抵触しない限り、定員を減らさずに運営か。
前回5位から3位に躍進した武蔵野音楽大学は、経常収支の回復により上昇。収支は安定しないが、2021年度に黒字化するなど(その後また赤字転落)、改善に向けて取り組んでいる。収容定員充足率確保が何よりも最優先事項となる。

3位から5位に転落した名古屋音楽大学は、系列の名古屋造形大学の大型投資のため運用資産減少、固定負債比率上昇によるもの。
桐朋学園大学は収容定員充足率が徐々に減少し、それに伴い経常収支も悪化。やはり入学者確保は大事。
11・12位の平成音楽大学、上野学園短期大学は相変わらず厳しい。
特に上野学園短期大学は極端な収支赤字が続いており、キャッシュフローも危機的な状態にある。2021年に所有していた音楽ホール売却で15億円近くのキャッシュが入ってきたが、運用資産はその後急減少しており、早急な立て直しが必要である。
平成音楽大学は定員80名に対し50名台で入学者が推移する等、校舎立て直しで再起をかけたが振るわず。



<集計後雑感>
しかしどこも赤字続きですな。二極化していて、前回赤字のところは引き続き赤字で、黒字のところは今回も黒字。序列はそう簡単に変わらない。下記は、前回との経年変化を示したもの。
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言うまでもないですが入学者・在籍者の数が、財務のすべてに直結します。一部エリザベト音楽大学みたいに、資産運用でうまくいっている例外もありますが、それもずっと続くわけではありません。高等教育の本分は教育研究ですから、まずは学生あっての大学ですね。
今回集計していて改めて強く実感しましたが、「収支は急には良くならない」です。当たり前ですが、売上に相当する学費は、4学年分です。一度定員割れしてしまうと、向こう4年は定員割れした金額でしか入ってこないんです。事業会社のように、一発逆転が難しいということですな。


しかし、今回も集計疲れた…

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音楽単科大学で頑張っている全国12大学。その財務健全性を測るため、4つの指標で5段階評価・点数化を行いランク付けをした。
ていく指標は①「運用資産余裕比率」②「経常収支差額比率(3か年)」③「固定負債構成比率」④「学部収容定員充足率(3か年)」の4つだ。
本当はもっと指標を加えたいところだが、非公表な数値があったりするのでこの4つで測っていく。最後に、この4指標の点数を集計し、ABCDEでランク付けを行った。
各指標の数値は客観的なものであるが、ランク付けは主観が入っているのはご了承いただきたい。各評価の説明は以下のとおり。

A:極めて良好な状態
B:良好な状態
C:平均並み
D:不良な状態
E:極めて不良な状態

良好や不良といった評価は、芸術系学部・音楽学部という視点から、私学事業団が発行している財務データ「今日の私学財政」の全国平(2018年度決算)を参考につけていった。




運用資産余裕比率

運用資産余裕比率は運用資産(現預金・特定資産等)から外部負債(借入金等)を差し引いた金額が、経常支出の何倍かを示す指標。要するに、経常的な支出(教育活動支出と活動外支出)に見合った貯蓄を行い過度な借金をしていないかを見る指標だ。経常支出に対して「何年分の純運用資産があるのか」といった見方だ。
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1位は堂々のエリザベト音楽大学。唯一の2ケタ台で、突出している。エリザベト音楽大学は事業規模が小さい(経常収入が少ない)割に、しっかりと積立ができており無借金経営のため、他の大学を大きく引き離した。身の丈にあった支出をしている一方できちんと貯蓄もしているというわけだ。
逆に平成音楽大学は同じく事業規模の小さい大学であるが毎年経常収支は赤字。収容定員充足率の低さもそうであるが、それ以外の収支も赤字続きのうえ積立も不足しているためこの結果に。新校舎建て替えにあたり借入したのも財務にネガティブな影響を与えた。
意外だったのが東京音楽大学。運用資産が少ないということもあるが、それに加え11,000百万円もの借入金が尾を引いている。どうやら2015年から設備投資に伴う大型の借り入れを行っているようだ。

経常収支差額比率(3か年)

経常収支差額比率は経常的な収支(資産売却など臨時的な要素を除いたもの)に着目した指標だ。プラスが大きいほど収支の安定を示し、マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。
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1位はまたもやエリザベト音楽大学。実はこの大学、教育活動収支は赤字が続いているのだが、特定資産で運用していると思われる配当益で、教育外収入として大きく稼いで経常収支を黒字にさせている。
経常収支が赤字のところが多いことからわかるように、音楽の単科大学で教育活動収支の黒字を出すのは困難なことなのだ(経常収支のほとんどは教育活動収支で決まる)。逆に言うと、名古屋音大、洗足音大、桐朋学園は教育活動収支のみで黒字を出しているため、本当の意味で本業の力が強い大学と言える。
最下位は東邦音楽大学。先にみたように積み立てはそこそこできているが、いかんせん経常収支で赤字を出しまくっている。後述するが、収容定員を6割切っているのが痛い。

固定負債構成比率

固定負債構成比率は固定負債の「総負債及び純資産の合計額」に占める構成割合で、主に長期的な債務の状況を評価するものだ。想定される固定負債として長期借入金と退職給与引当金が想定される。ここでは特に長期借入金に着目する。
借入の多さは直ちにネガティブな影響を及ぼさないが、こと音楽大学に関しては今後の市場・事業規模縮小が予想されるため、設備投資などの借り入れは今やるべきことではないと考えている。①の指標も借入が大きく影響を与えるため、大きく借入をしている東京音楽大学は不利となるが、あえてこの指標を入れた。
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1位は洗足学園音楽大学。先にみたように貯蓄も経常収支も安定しており、そもそも借入などする必要もない。
この指標はどの大学も安定して全国平均以下であったが、問題は東京音楽大学。創立111周年記念というなんとも中途半端な周年事業の際に、「中目黒・代官山キャンパス」を設立。



確かにすんげえキャンパスだ。この設備投資が吉と出るか凶と出るか。というか、経常収支は安定してないし貯蓄も少ないんだし、施設設備投資は控えるべきだと思うけどね。
本当はE評価としたいところだが、借入の内容が教育施設に対するもの、充足率を十分に満たし積極投資であることを加味しD評価に。

学部収容定員充足率(3か年)

最近どの大学も苦労している学部収容定員充足率。少子化の今、事業規模のレベルは適切にするべきだ。収容定員は事務的な手続きで下げることができても、人件費や施設設備は簡単にカットできない。カットするには大変な労力と時間がかかるのだ。それらを踏まえ、定員充足ができていない場合は、財務が安定している間にゆるやかに適正水準にしておく必要がある。財務がひっ迫している状態で急いで行っても、時すでに遅しなのだ。
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充足率第1位は堂々の東京音楽大学、学生数も1,383名となっている。これほど安定的に充足できているからこそ、積極的な借入と設備投資、という発想になるのだろう。これからどうなるかわからないが。
最下位は大学部門を閉じる予定の上野学園大学。下から2番目の平成音楽大学は立地が熊本ということもあり、今後も厳しい数値が予想される。新校舎設立で起死回生を狙ったが、泣かず飛ばす。収容定員400名に対し、なんと在学者205名という状態。ちなみに音楽大学と称しながらコッソリ子ども学科もある。こちらは充足率6割なのだが、肝心の音楽学科で42%と低調なのだ。


まとめ(総合ランキング)

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総合1位は洗足学園音楽大学。正直この大学、集計を始めるまで読み方がわからなかった。「せんぞく」と読むらしい。キリストの言葉「足洗えばなんちゃらかんちゃら」みたいなものから命名したようだ。充足率も貯蓄も経常収支も全てにおいて良好な状況であった。一つ注文するとすれば、これからも貯蓄を十分に行い死角の無いようにしたほうが良い。
2位のエリザベト音楽大学は洗足学園よりも尖った財務の好調さを見せたが充足率に問題あり。このまま充足しない状態で教育活動で赤字を出しながら教育外で収支を保つか、迷いどころ。いずれにせよ、十分な貯蓄があるため考える期間はいっぱいある。
逆に音楽オンチの僕でも良く聞く国立音楽大学・武蔵野音楽大学・昭和音楽大学は平均並みであった。いずれも貯蓄はそこそこできているのだが、いかんせん経常収支が安定せず。特に武蔵野音楽大学と国立音楽大学は定員を充足するのが専らの課題となる。
意外だったのが東京音楽大学。積極的な借入・設備投資が財務状況を悪化させている。定員を充足させているため投資は効果的と言えるが、経常収支で赤字を出し続けているので少しやりすぎ感。今後は収支の均衡を保ちながら貯蓄を行う必要がある(借金も返さないといけない)。点数は他のD評価大学より下だが、充足率を見るとかなり救いようがある。
落第生は上野学園大学と平成音楽大学。どちらもヤバイ大学として既に取り上げたため、結果は推して知るべし。特に平成音楽大学は全体的に問題を抱え、熊本という所在地がとどめを刺している。




概して、どの大学も全国平均と比べると苦戦しているようだ。特に、経常収支が赤字続きで定員を充足していないところが辛い。今後は音楽大学の定員・事業規模の縮小は必至だ。 集計していて感じたが、安定的な教育を行うには健全な財務が必要だということだ。エリザベト音楽大学は、定員も充足していないし教育活動収支も赤字だが、貯蓄をしっかり行い教育外で稼ぎ全体として健全な財務体制となっている。
逆に両方ともダメなところは、無理な資産売却や定員縮小・人件費削減を行い、それらが教育活動にも支障を来してしまっている。 それほど、財務と教育というのは密接に関係しているのだ。
今までは放っておいても学生が集まっていた時代であったから意識されなかった財務。これからの時代は、より重点的に見定める必要がある。なぜなら、潰れる大学はサービスの質が悪くて潰れているわけではない。財務が悪化し結果として潰れるのだ。大学が閉学に追い込まれ損を被るのは学生であり教職員だ。これ以上不幸な大学が1つでも減るように、厳しくチェックしていく。

こんな感じで進めた今回のランキング企画。各大学の財務資料PDFをひたすらコピペしていって計算したので、非常に疲れた・・・。
次はどこのカテゴリでランク付けしようかな。


エリザベト音楽大学をエリザベス音楽大学だと勘違いし、エリザベド音楽大学なんだと思ったらエリザベト音楽大学だったくらい、音楽には疎い。
そんな自分でも、聞いたことがある音楽大学がある。上野学園大学だ。
盲目のピアニスト・辻井伸行氏を輩出した、あの大学だ。

そんな大学が2020年7月に突然、大学部門の学生募集停止を発表した。都内という恵まれた立地にありながら、1958年から続いた歴史は突然の終わりを告げた。



ちなみに短期大学と中学高等学校の募集は引き続きするそうだ。それにしても突然の募集停止、いったい何があったのか。
ホームページには

「少子化や社会情勢の大きな変化の中、様々な改善策を試みましたが、
大学部門の厳しい状況に変わりなく、募集停止に踏み切らざるを得なくなりました。」

とあるが、本当にそうなのか。財務からその内情をみていきたい。

先ず押さえておきたいが、上野学園大学はご多分に漏れず定員未充足大学だ。2020年度における学部収容定員充足率は50%と、ここ数年50%台で推移している。
2020年3月末の貸借対照表において、特定資産(積立貯金のようなもの)は122百万円、現預金221百万円と、事業規模に対して極端に少ない状態。その他有価証券を持っているかは不明。

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※上野学園大学「事業報告書・財務諸表」より
 https://www.uenogakuen.ac.jp/university/about/disclosure/report.html



2019年度決算において教育資金収支差額で▲184百万円も赤字を出しているので、現状の運用資産では借入や資産売却をしない限り、2年ともたないことになる。後述するが、同大学は過去4年でめちゃくちゃ大切な資産を売却しまくっている。
ちなみに全体の資金収支は48百万円の黒字となっているが、これは借入金収入430百万円があったからだ。

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2016年からの教育活動収支をみてみよう。
いつもは「資金収支」を見ているのだが、活動区分ごとの資金収支が公表されていないため、事業活動収支で見る。事業活動収支は、減価償却など非資金性のものも含む収支だ。
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以上のように、教育活動収支は4年連続赤字で、絶望的な状態だ。ちなみに2016年に全体の収支が黒字なのは、バッハの自筆楽譜を売却した収入があったからだ。
また、特定資産と現預金も合わせて350百万円ほどしかないため、これからも同水準の赤字が続けば、資金が尽きてしまう。

さらにこの4年で、資産売却も積極的に進めている。過去4年の資産売却収入をみていこう。

2016年:407百万円→草加土地やバッハ自筆楽譜売却等の資産売却
2017年: 43百万円→草加校地で保有していた資料の売却
2018年:112百万円→草加市に郊外型学園として使用していた校地・校舎を売却
2019年:0.25百万円→ピアノの売却

僕は音楽に詳しくないのだが、バッハ自筆楽譜って売却していいのだろうか。しかも草加校地の資料も売却してるし、何か大切なものを大きく失っている気がする。
ていうか、2019年のピアノ売却0.25百万円て。

こういった音楽大学にとって大切な資源を売却する局面である財務状況だから、大学部門は閉じざるを得なかったのだろうが、それにしてもあまりにもひどすぎる財務状況だ。まず、収容定員を充足する手立てははなかったのか。色々と疑問が残る大学部門の募集停止だ。
大学にある資産、とりわけ教育学術的な無形資産の継承は、こういった芸術界隈においても非常に慎重に行うべきである。この大学が開学以来培ってきた技術・人財といったものは、このずさんな経営で立ち消えることとなった。

ちなみに同大学は2016年に文科省に第三者委員会の設置を要請されていた。
その後設置された委員会によると、理事長ら石橋家への過剰報酬、身内で固めた株式会社への不透明な業務委託による利益相反等を報告している。
また、残業代未払いによる教職員組合との裁判があったり、法人に反旗を翻した教員を解雇したりと、色々と問題を起こしていた。





エリザベト音楽大学のように、きちんと貯金をして堅実経営をしていれば、こんなことにはならなかったのだが・・・。



まとめ

  • 上野学園はここ数年ずっと定員未充足で、2020年度学部充足率は50%
  • 赤字続きで、バッハの楽譜や校地校舎を売却するなど、苦しいお財布事情
  • おまけに運用資産は350百万円ほどしかなく、教育活動資金収支差額▲184百万円に対し、2年ともたないような運用資金状況
  • 2019年にピアノ売却して0.25百万円ゲット



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by カエレバ


エリザベト音楽大学という大学をご存じだろうか。僕は知らない(なかった)。

1947年のエリザベト音楽教室を母体とし、1963年に大学設置がなされた。場所は広島県広島市中区で、近くには広島城や県庁、原爆ドームがあり、立地は良い。



だが、学生集めには苦戦している。2017年に学部収容定員充足率69.1%、2018年71.9%、2019年68.1%、2020年72.8%とずっと充足できずにいる。

そんな大学、絶対財務もヤバイじゃないですかというのが今までの流れであるが、ここは違う。まずは貸借対照表を見てみよう。
「運用資産対教育活動資金収支差額比」という指標がある。これは「教育活動資金収支(本業の収支)がマイナスの場合、それを何年賄える貯蓄があるか」というものだ。同大学は2019年度決算において、181百万円もの教育資金収支赤字を出しているが、それを賄うための運用資金はおよそ57年分ある。57年間同じ赤字に耐えうる貯蓄があるということだ(流動資産における有価証券の額がわからなかったため、少なく見積もっている)

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※エリザベト音楽大学HP「財務状況」より
 http://www.eum.ac.jp/about/information_disclosure/finance/


それもそのはず、この大学は10000百万円もの特定資産があるのだ。地方の大学、特に音楽の単科大学でこの特定資産の額はよくやっていると思う。
特定資産は将来の建物更新や退職金等支出を目的とした貯蓄だが、これをうまく運用しているかいないかで、大きな差が出る。
ただ特定資産を積み立てているだけではない。この特定資産を運用し、2019年度は490百万円もの受取利息・配当金収入を計上。同大学の学納金収入が414百万円だから、それを上回る額だ。全体の収入のおよそ17%であるから、大きな収入源だ。

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これにより、教育活動資金収支(本業)はマイナスが出ても、全体としては僅かながら黒字を出している。

2015年からの教育活動資金収支(+全体の資金収支)を見てみよう。

2015年▲199百万円(+225百万円)、
2016年▲119百万円(▲381百万円)、
2017年▲154百万円(▲55百万円)、
2018年▲216百万円(+38百万円)、
2019年▲181百万円(+11百万円)。

これらを見てわかるように、本業でのマイナスを本業外でうまくカバーしている。そして特定資産などの積み立ても大きく崩さず、わずかながら増やしている。当然無借金経営だ。
財務危機がないため、定員未充足でも極端な人件費カットや施設売却が伴わない状態だ(若干教員人件費がじわじわ下がっているようだが)。

広島という地方でありながら、学生集めに苦戦しながらも経営は安泰。少子化時代において大学の本業は儲からないということを見越し、しっかり積立を行い全体の収支を崩れないようにする。そして安易に収容定員減を行わず、教育の質も担保している。 これは、少子化時代における本来の定員割れ大学の在り方だが、これをできているところはほんとどない。少しは見習ってほしいものだ。

まとめ

  • 本業はずっと赤字であるが、本業外の資産運用等でカバー
  • 特定資産が潤沢にあるため、赤字だからといって財務に直ちに影響なし
  • 過去の財産をしっかり守り、無駄な施設等投資をせず堅実経営

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