カテゴリ: 歯科大学

松本歯科大学をご存じだろうか。僕は知らない(なかった)。
名前から連想する通り、長野県にある歯学部単科大学で、松本市よりは少し離れたところにある。


学部収容定員充足率が76%ほどで、そのうちなんと188名が留学生だ(在学生数が544名なので、およそ35%が留学生)。
別に留学生が多いからってなんてことはない。国際化に貢献しているし、留学生をいれてでも定員充足できてないのも、まあ仕方ない。

問題は財務だ。
参照できる一番古い2016年度財務書類によると、特定資産706百万円、現預金1,466百万円もあった。
そして教育資金収支差額(本業収支)は▲456百万円、全体の資金収支は▲242百万円となっていた。
1C2F956F-1AE3-4350-96B4-3C0A45B7627A
※松本歯科大学「情報公開」より
 https://www.mdu.ac.jp/outline/public_info/disclose.html


それが2019年度決算になると、特定資産106百万円、現預金679百万円と激減
1658876E-48C9-4A6D-993C-3D79C2F185CD
言うまでもなく運用資金は、現預金+特定資産+有価証券で構成される、重要な指標だ。 
なぜ、これほど激減したのか。2016年~2019年の教育活動資金収支と全体の資金収支をみてみよう(カッコは全体の資金収支)。

2016年:▲456百万円(▲242百万円)
2017年:▲327百万円(▲329百万円)
2018年:▲279百万円(▲271百万円)
2019年:▲ 95百万円(▲ 57百万円)

一見2019年度は収支が改善しているようにも見えるが、これは特定資産の各種積み立てを取り崩したことにより、見かけ上の資金収支が改善しているだけだ。
この4年間で、特定資産が600百万円も、現預金が800百万円も減ったのはこのためだ。施設設備等投資も重なったのも原因の一つだ。カッコの赤字分が実際に流出したキャッシュであり、この4年間で900百万円ほど減ったのだから、そりゃ特定資産の取り崩しが必要になる。
しかし気になるのは受取利息・配当金収入だ。2019年度は88百万円と、運用資金に対して10%ものインカムゲインがあった。一体どこにお金を預けているのだろうか・・・。

良く見積もっても、これからも毎年100百万円ほどの資金収支赤字が出るだろう。そう考えると、もってあと8年。その間、施設設備等を売却するだろうから、10年ちょっとはもつだろうが・・・、と個人的に見ている。
2020年度はコロナの影響で外国人留学生も減るだろうし、それにより定員充足率が減り補助金も減るだろうから、かなり困難な決算が予測される。
東京歯科大学は早めに合併を申し出た。松本歯科大学、さあどうする。というか、引き取ってくれるところはあるのか。

11月26日に下記のニュースが流れ、Twitterでトレンド入りしていた。

23年に慶応大「歯学部」 東京歯科大と統合協議開始
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6377659

慶応は歯学部を持てること、東京歯科大学は合併によるスケールメリットを生かせること、両者の思惑が一致したようだ。
ではそもそも、東京歯科大学は合併しなければいけないほど、財務がひっ迫していたのか。それをみていきたい。

過去5か年の事業活動収支が載っている。学生生徒等納付金は4,800百万円前後で、医療収入も20,000百万円前後で安定。育活動収支差額(本業による差額)も1,500百万円前後の黒字で安定している。
基本金組入前当年度収支差額(トータル収支)もばらつきはあるが1,000百万円~3,000百万円の間で黒字を出し続けている。収支は悪くない。令和元年度が収支黒字が少し落ちているが、これは医療経費や減価償却が増えたものが原因だ。

A52AA5DA-DEF3-4F6C-8D4A-ACE3A0A59CF9
※東京歯科大学HP「財務情報」より
 http://www.tdc.ac.jp/college/information/tabid/492/Default.aspx
 


では、大きな借金を抱えている、または全然貯蓄していないのか。貸借対照表を見てみよう。
88EB8E06-DC3E-439A-9902-F9298E534B97
F8486AE7-4AE3-40BF-B84A-46B7C2673DD6
2020年3月末現在の貸借対照表において、21,821百万円もの特定資産を積み立てている。現預金は4,104百万円。悪くない。積立率も60%近く、平均並みだ。
借入も4,000百万円残っているが、資産の額から比べれば微々たるものだ。

この大学、良くも悪くも普通だ。なんの攻めもしてない守りの大学。有価証券も、みたところ購入していない様子だ。
このまま平々凡々と大学は続けられていただろうが、ここで合併を申し入れるのは、かなりの英断と言える。大学の役員はたいてい、お山の大将でいたいから最後の最後まで粘るのだ。教育学術的な観点から、決断したのであろう。
一部専門家が「歯学部や医学部の単体では生き残りが難しい」と語っていたが、それは全くのウソか客観的なデータもなく雰囲気でそう語っているだけだ。財務的には問題なくやっていける。第一、ここより財務的にヤバい歯科大学なんていっぱいある。
たいてい、身売りをするときは財務がボロボロな状態であるが、慶応としてはおいしい買い物といえる。これだけの特定資産と現預金、歯学部という教育資源を手に入れられるのだから。
ちなみに先日も紹介したが、慶応は有価証券で約10,000百万円もの評価損をたたき出している。東京歯科大学の財産も、こうやって慶応のハチャメチャ運用に組み込まれていくのだ。

まとめ

  • 財務は悪くなく、良くも悪くも普通。今後も永続的に経営していける
  • 慶応としては25000百万円もの現預金・特定資産と教育資源が入ってくるおいしい話
  • 財務がこの段階での身売りはかなりの英断



↑このページのトップヘ