カテゴリ: 医療系大学

このコロナ禍で、ただでさえ忙しい医療従事者の皆さんに感謝しつつ、この執筆を考えた。
大変な時に雇い主がどう扱ってくれるか、厳しく見たほうがいいよという話。

何かと話題の東京女子医科大学、ま~た世間を騒がしちゃいました。


※組合だより11/27参照
 

組合だよりによると、年末一時金が一律1.5か月分とのこと。夏季賞与はモメにモメて1か月分。当然昨年度実績を下回ってしまったようだ。



他大学の支給状態は下記のとおり。減額したのは順天堂大学のみだが、同大学は一律分のみカットで、そもそも3.2か月もの支給があるのだ。

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※組合だより11/27より抜粋
 
東京女子医科大学だけ異常に低いな。
医療従事者からすればそりゃそうだろう。これだけコロナで大変な目にあわされたら、賞与現状維持はあたりまえ、いやアップしてくれなきゃ困るだろう。疲弊した状態でさらにボーナスまで減らされる、そんなの考えただけでもつらい。
そもそもこの大学はボーナスをカットしなければいけないほど、財務状態は悪いのか、財務をみていきたい。

いつもは「教育活動資金収支」でみているが、今回の大学は数年でどうなる、というようなヤバイ大学ではないので、中長期的な視点で非資金科目等も入った事業活動収支上の「教育活動収支」「基本金組入前当年度収支差額」でみていく。
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同大学の特徴として、教育活動も全体の収支もそれなりに安定していることが特徴だ。
2016年の赤字から、それ以降なぜ黒字になれたかというと、人件費が2015年の43,506百万円から、2017年には3,9745百万円に激減しているからだ。何があったかわからないが、とにかく人件費を4,000百万円も削ったのだ。
また、同大学はここ数年、猛烈に施設設備支出と借入を行っている。施設設備支出と借入金残高を見ていく。
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借金は雪だるま式に増えている。
概して、全体の収支は悪くないが施設設備等投資のため黒字幅を圧縮、借入残高が増えこれが財務の赤信号となりつつある。
運用資産について、28,961百万円あるが、借入はもっとある。
積立率は一部数字が不明なため推定値であるが、30%台であろう(個人的には8割程度積んでおけば安心と考えている)。

本業は儲かっているのだから、無理に施設設備投資しなくとも・・・と思うが。いずれにせよ、人件費圧縮によって黒字が達成できていることは確かだ。
財政は良くもないが、それは事業収支上の話であって資金収支上はそれほど圧迫されていない。確かに人件費を抑えたい意図はわかるが、今やることかなとも思う。人件費抑える前に施設設備投資を抑えればいいわけですし。

同大学が学費の値上げを発表したが、これは今の財務状態であれば致し方ないかなと考えている。学生の質・偏差値を下げてでも、キャッシュを潤沢にする必要がある。

学費値上げにより、長期的な財務が悪化するなんて吹聴している医療ライター(?)がいたみたいだが、全くのウソ。詳細は下記記事を。


色々考えたが、同大学の財務は非常に難しい。良い状態と言えないのは確かだが、賞与は確保してあげる余裕はあるというのが個人的な考え。医療収入で潤沢な収入はあるのだし、学納金も間違いなく入ってくる。直ちに財務がどうこうなるような大学ではないので、そこはうまくバランスとって従業員に還元してほしいなというのが結論。
あんまり報酬関連でモメると、悪い噂だけが先行して、それだけで損ですよ。
それにしても借金の額が、日本医科大学に迫りつつある。



まとめ

  • 収支は安定しているが過度な借金と施設設備投資により長期的な財務は赤信号
  • 人件費をめちゃくちゃ削ることにより黒字達成
  • 学費値上げにより今後の財務はより安定的に推移することが見込まれる
  • 良い財務状態とは言えないが、この局面でボーナスをカットするような局面ではない

2008年、福岡県みやま市瀬高町に1つの私立大学が誕生した。保健医療経営大学だ。保健医療経営学の学士が取れる日本唯一の大学という触れ込みであったが、開学以来定員を充足したことは一度もない。ちなみに初年度入学者数は27名であった。2013年に定員を150名から80名に変更、2015年には日本高等教育評価機構から「不適合」判定を受ける。
そして2019年5月、ついに2020年度より学生募集停止を発表。2023年に法人解散予定であることを発表した。

保健医療経営大学 学生募集停止のお知らせ

何がダメだったかというと定員を充足するほどの魅力がなかったのが問題だが、それに連動して財務もヤバイことになっていた。

2020年3月末時点での貸借対照表を見てみよう。
特定資産は当然0。現預金23百万円、有価証券なし。運用資産は23百万円の現預金のみだ。
2019年度は、全体の資金収支で▲221百万円もの赤字であった。これでは来年はやっていけないであろう。

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※保健医療経営大学「情報公開」より
 http://www.healthcare-m.ac.jp/university/finance/


ちなみに赤線が曲がっているように見えるが、線が曲がっているのではなく掲載されている計算書自体傾いているのだ。何を言っているか分からないかもしれないが、経営が危ない大学ほど、よくPDF写しを傾けて掲載するのだ。

2016年からの経年で、教育活動資金収支と全体の資金収支を見ていく(カッコは全体の資金収支)。

2016年:+66百万円(+45百万円)→2億円寄付により黒字
2017年:+93百万円(+71百万円)→2億円寄付により黒字
2018年:+112百万円(+91百万円)→3億円寄付により黒字
2019年:▲204百万円(▲221百万円)→寄付打ち切りにより赤字

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以上のように、寄付によりなんとか経営を維持していた。同大学の大元は、「社会医療法人雪の聖母会」というところであり、おそらく寄付のほとんどがこの医療法人から受け取っていたものであると推察できる。
ちなみに2018年度の教育活動資金収入における寄付の割合は65%という異常事態。

寄付金収入も「教育活動資金収入」に計上されるため、同大学は教育活動資金収支差額も黒字だったのだ。
しかも、2018年度末まで1350百万円もの借入を行っていたが、返済能力もないということで翌年度に債務免除。
医療法人からしたら、とんでもない赤字を垂れ流し続けた大学だった。

学校閉学まで残り2年ほど。医療法人からしたら、頼むからあと2年赤字幅を縮小してくれというのが本音だろう。なぜなら、赤字分補てんしなければならないのだから。

まとめ

  • ずっと収容定員未充足で、医療法人からの寄付でなんとかやっていけていた
  • その後も赤字続きでついに寄付打ち切り、債務残高も1350百万円あったが、返済能力がないということで債務免除

日本医科大学。歴史は深く、慶應義塾大学医学部、東京慈恵会医科大学と共に、私立医大御三家と称されるそうだ。 

直近2020年3月の貸借対照表上で、35000百万円もの長期借入金、14000百万円もの短期借入金がある。 これはヤバい状態なのか。同大学の運用資金は現預金8400百万円、特定資産58百万円で運用資金を大きく上回る借り入れをおこなっている。


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固定負債比率(固定負債の総負債+純資産に占める割合)は43%と、全国平均8~10%を大きく上回る。借入をし施設設備投資することが学生募集や教育研究上にとって良いとも言えるが、同法人の手元資金を見る限り、過度な借入のような印象を受ける。そして毎年、借入金に対する利息返済支出で500〜600百万円ほど計上している。

では、なぜこれほどまでに借り入れができて、何に使っているのか。
教育活動収支差額(本業)は8225百万円の黒字。ここ数年はこの数値に近い大幅な黒字を出している。中身を見てみると、それを支えるのは収入の8割を占める医療収入(8486百万円!)だ。 

しかし、だ。本業から飛び出して、施設設備等活動による収支は5100百万円もの赤字。2018年頃から、毎年5000百万円ほどの赤字を出している。通常の施設設備投資をしていれば赤字が出るのは仕方ないことだが、それにしても赤字幅が大きすぎるしこの財務状態でやることだろうか。学校法人は永続的な活動と学生の学修機会確保のため、財務の健全性を強く求めている。


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そして、事業報告書には包み隠さず借り入れ残高・利息支出の経年変化を公表している。
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借入金は一番多い時で平成27年の65400百万円。平成22年の借り入れ利息は900百万円近くも支払っていた。こりゃ貸し手にとって優良顧客、要するにこれだけ借り入れできる信用力があるということだ。

だが、現預金
8400百万円、特定資産僅か58百万円と積み立てをほとんどしていない状態で、このような設備投資は果たして妥当なのか?

病院を持つ大学で医学部の地位も盤石なので、急に崩れることは考えられない。しかしこの自転車操業的な経営は、学校法人にしてはいささか不安なやり方である。


まとめ

  • 日本医科大学は固定負債比率が43%と、全国平均8〜10%を大きく上回る。
  • 医療収入を柱として毎年大きく黒字を出しているので問題はないが、積み立てをしていないので不安 
  • めちゃくちゃ借金してめちゃくちゃ設備投資をしているが、本業の稼ぎの良さで借金は徐々に返してはいる。

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