カテゴリ: 大学の財務



この間公開した早慶Gマーチ日東駒専財務ランキング。苦労して集計した割にはそんなに伸びなかったので追考察。

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結論から言うと一位は東洋大学。高い収益性(経常収支が毎年50億円の黒字)と豊富な運用資産で見事1位となった。
しかし運用資産(現預金・特定資産・有価証券)が1,000億近くですよ。そんな貯め込む必要性ありますかね。もっと教育研究投資すれば良いのに。法人・財務部門が強いんでしょうね。
また、これだけお金があるのに運用にそれほど積極的でないのも気になりますね。2020年度の配当益は3億程度。保有している有価証券200億程度で、もうちょっとやり方があるのでは、と思います。

さて、50億円の黒字というのは事業活動収支上の話。これは、減価償却費だとか非資金性のものも含めた収支だ。
実際の資金収支上はどうか。「活動区分資金収支計算書」を見ると、「教育活動資金収支」が黒字であることがわかる。これは、いわば本業の資金収支上の流れだ。

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毎年100億円近く、本業では資金収支上ではお金を生み出しているのだ。
そこから設備投資やら預貯金の引き出しやらのキャッシュフローの中で、最終的な「支払資金の増減額」となるわけです。

2010年当時、東洋大学の運用資産は5~600億円程度でしたから、そこから順調にお金を貯めているようですね。まあどこの大学も同じような動きですが。
が、東洋大学の場合、2010年と2020年の学部収容定員、両方とも2万9000人で、変わってないんですよね。規模拡大で貯蓄の額が増えたのではなく、純粋にお金を貯めていただけという。

もっと大学としてジャンプアップするには、極端な人材投資だと思うんですけどね。まあ保守的なのが大学。別にリスク取る必要ないですもんね。

まあ結論を言うと、ワイの意見は


東洋大学、金使わなさスギィ!

です。

毎年100億円

川崎医科大学を運営する川崎学園が毎年受け取る受取利息・配当益収入だ。
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※2016年・2017年の運用資産は推定値

驚くべきこの大学。3,000億円もの運用資産を持つ、最強の大学だ。早稲田大学は1,200億円ほどなので、その力が十分わかる。
学納金124億円、医療収入437億円だから、配当益100億円というのは収益の大きな柱だ。
余談だが同学園が所在する倉敷市の一般会計の予算はおよそ1900億円、税収が700億円ほどだ。もう倉敷を超えたといっても過言ではない。

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2019年度は、副業の儲けが本業の3倍近くになっている。
ただでさえ儲かっているのにも関わらず、副業も絶好調な様子。副業というのはもちろん受取利息・配当益収入のことだ。




なんなんだこの大学・・・と思っていろいろ調べてみると、このような記事が。
「…また20年現在、「最も高い医大」は川崎医科大学であり、学費は約4737万円で、偏差値的には医大ランキングの最下位に近い。」


付属高校を含めたトータル学費は、6,500万円かかるという。

やっぱり世の中金や!


倉敷にそんな金持ちがいるのか?いや、金持ちが倉敷に集まるのだろうか。
しかし、これだけの収益と貯蓄があれば、学費値下げしたって全然余裕なのに、やはりそこは医学部単科大学だからか。偏差値最下位に近いレベルでも、現状維持でOKということか。帝京は総合大学なので、その辺は複合的な要素で学費値下げできたのでしょうね。

いや~しかし、世の中には知らない所でガッポリ儲けている大学がまだまだあるのですね・・・。

大して難しくありません

大学を結婚相手だと見立てましょう。結婚相手を探す場合、どこを見ますか。そう、年収でしょう。だけど、個人と違って組織がやっかいなのは、年によって年収が大幅に上下しちゃうことですよね。じゃあ、どこを見るか。そう、貯金額です。

この人(大学)、お金どのくらい貯め込んでるんだろう・・・。パートナー探しにおいて当然考えることですよね。
大学において貯金(運用資産)は「特定資産」「現預金」「有価証券」です。それらは、「貸借対照表」で確認できます。
ここで見ていく大学はモテモテの早稲田大学さん。引く手あまたです。
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特定資産というのは建物の更新や奨学金等、将来の各種支出に備えて積み立てておくものです。大抵、運用にまわして現預金ではなく債権等で運用しています。
ここで「あ、早稲田大学さんは540億円も将来に備えて積み立てているんだな、素敵」となるわけです。
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「有価証券」と「現預金」はどうか。ここで1,100億円近くあるので、それはもう相当なお金持ちだということがわかりますね。

いや、でもお金持ちに見せているだけで実は借金いっぱいあるのでは?!
ということで、貸借対照表における負債の部、下を見てみましょう。
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長期借入と短期借入は合計60億円程度。運用資産の額から考えれば、大したことないですよね。

では、貯金は潤沢でも「今」は稼げているのか。過去の財産を元手に無双しているだけで、今は全然じゃないの?
ということでその人の年収を見るために、「事業活動収支計算書」を見てみましょう。

事業活動収支計算書は教育活動収支(本業)、教育活動外収支(本業外投資活動等)、特別収支(建物売却等)の3つに分かれているので、まず本業でちゃんと稼げているか見ましょう。
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教育活動収支(本業)の下に収支差額が記載されているので、なるほど早稲田さんは30億円近く儲けているんだ!素敵!となるわけです。
ちなみに30億円という数字がピンと来ないかもしれませんが、それは全国平均と比べたり、私がいつも公開している「〇〇率」といった形で比率に変換して実態を把握するのも手ですね。

早稲田さんは本業のみならず、副業も熱心です。
教育活動外収支(本業外投資活動等)も見てみましょう。副業みたいなもんです。
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副業ではなんと60億円近くの黒字!中身を見ると、受取利息・配当益収入ですね。投資という副業で本業を上回る、まさに現代っぽい勝ち組さんですね。
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最終的な収支は下の方にある「基本金組入前当年度収支差額」を見ます。結果、早稲田さんは93億円もの黒字だったというわけですね。お金持ち!

このように相手の懐を探るように財務分析をやれば結構楽しいです。実際はもっと色々と見ることになりますが、これでザックリはわかるんじゃないでしょうか。

借金こさえないといけない業でも背負っているのか?

なんとなく各大学の財務諸表を見ていたら発見。聖マリアンナ医科大学。
1960年設立と後発の大学で、神奈川県に所在する私立医科大学だ。
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運用資産と借入金を眺めていたら、2019年度に大型の借り入れを行っている。
運用資産も大してないのに、よくこんな借入やるな・・・という感じだが。銀行からしたらいいお客なのだろう。収入は堅いし、公益性のある法人でもある。

どうやら創立50周年事業で2022年、24年、26年にそれぞれ新病棟等の新設計画があるそうだ。そりゃお金がかかる。



どでかい構想だ。こりゃ儲かっているところしか成しえないキャンパスですね。それでは資金収支を見てみよう。
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こちらは資金収支だ。毎年数十億程度の黒字が達成できており、上記設備投資を行った2019年のみ大きな資金収支赤字を出している。
同大学は赤字の要因について、事業報告書で下記のように記載している。

「(赤字の)要因としては、患者数減少や平均単価下落により医療収入が伸び悩む一方、リニューアル計画上の必要経費や直接材料費の増加のほかに、入試実態調査に係る第三者委員会関連経費、適時調査返還金、保有株式評価損の計上等の特殊要因が大きく影響しました。」

それ、あなたの感想ですよね?(AA略)
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上記のように医療収入は右肩上がりだ。原因としては1つ、校舎建て替えのための医療経費支出増加と施設設備支出の増加だ。
まあ、この大学のように稼ぐ力があれば、何年もかけて返せるのでしょうけど・・・。なんで医科大学って十分貯蓄しようという概念がないんですかね?積極投資は確かに評価されるべきですが、こと学校法人においては一概にそういえません。
医者のみなさん、こんなにポンポン病棟建てるのって絶対必要なのでしょうか(そりゃあるに越したことはないだろうけど)。




まあ日本医科大学なんて500億円も借入金あるから大丈夫か!
大いに借金して大いに設備投資して大いに稼ぐ、それが医科大学のやり方じゃい!

69.3%

この数字は、京都精華大学の学部収容定員充足率の3か年平均だ。こんな充足率の大学、絶対ヤバイですやんというのがこのブログ読んでる人の総意だが、ここは少し違う。
運用資産余裕比率は1.8年分と、まあ全国平均並み。過度な借入もない。驚くべきは、この充足率で経常収支差額比率が3か年平均で辛うじて黒字なところだ。一番大きな収入である学納金が欠損しているであろうこの大学、なぜ黒字にできるのか、追っていきたい。

1968年に開設された同大学。場所は京都府京都市だが、岩倉木野町という山の中にあるような、まあある意味芸大っぽい立地だ。学長に有名漫画家の竹宮恵子氏が就いたことがあるからわかるように、マンガに特化した大学だ。


詳しい財務比率は同大学HPに載っているため、それを見ていきたい。
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まず、経常収支差額比率は2019年度は若干赤字だったが、それ以前は黒字続きだ(僅かではあるが)。学納金が確保できていない同大学で、どうやって黒字達成しているのか。そうだ、人件費を抑えているからだ!ということで、人件費比率を見る。
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全国平均と変わらず。では、それ以外の教育活動支出を抑えているからか?
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教育研究経費比率は若干平均より下回り、管理経費は平均より高い。
ここで一つの仮説が成り立つ。教育研究費の支出額自体が低いので、管理経費の比率が上がっているのでは?つまり、教育研究経費(人件費は含まれていない)を抑えているから、同大学は支出を抑えられているのだ!ということになる。

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上の表は、京都精華大学と学生数が同規模程度の大学で、教育活動支出を学生数で割り「一人当たり教育活動支出」をはじき出したものだ。
東京工芸大学すげえなという結論になるが、京都精華大学も同規模大学と比べ低く抑えられていることがわかる。

あまりはっきりした要因は見つからなかったが、教育活動支出を抑えているのが一番大きな原因か。
ちなみに、同大学の収容定員は4549人で、およそ1124名も充足できていない。単純計算でこれを学納金に換算すると、約14億円もの毎年得られるはずの収入を逃していることになる。
それほど、学納金収入、ひいては収容定員を充足するというのは大事なことなのだ。
普通、収容定員充足できてなかったら支出だけは収容定員分支出することになるので、赤字になるんだけどね・・・。同大学の節約手法で、なんとか黒字化できているもよう。
また別の視点でみたら違うものが見えるかもですが、今日はここまで。

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