カテゴリ: 大学の財務

約100,000百万円。

兵庫県西宮市にある、武庫川女子大学が持っている運用資産の額だ。なんとこの大学、特定資産だけで90,000百万円もの積立をしている金持ち大学なのだ。同じく女子大学の津田塾大学が6,000百万円、東京女子大学が13,000百万円、日本女子大学が8,000百万円と比べると、頭一つ抜けていることがわかる。

そんな大学、11月にこのようなニュースが流れた。


おいおい女子大学のクセに思い切った投資するねえ。見栄張っちゃって大丈夫か?と思い財務書類を見てみたらビックリ。とんでもなくお金を貯めこんでいた。
それでは同大学の財務書類を見ていこう。

先ほど見たように特定資産89,178百万円、現預金8,434百万円、借入金0の綺麗で良好な貸借対照表だ。
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では、単年度の収支はどうなのか。教育活動収支(本業の収支)と経常収支(教育活動外収支も含めたもの)の経年変化をみていく
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教育活動収支は赤字を出しているが経常収支(教育外収支も入れたもの)では黒字になっている。どういうことか。中身を見ると「受取利息・配当益」で大きな収入を計上している。これほどの特定資産があるのだから、おそらく運用に大きくまわしているのだろう。配当益は毎年1,200百万円程度計上しているので、教育活動収支での赤字をうまく吸収している形だ。

教育活動収支と受取利息・配当益収入の経年変化は以下の通り。
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エリザベト音楽大学のように、本業では儲からないから本業外できっちり収支の均衡を保つスタイル。
ちなみに以前紹介した早稲田大学の受取利息・配当益収入は約5,000百万円、慶応は3,000百万円程なので、地方の女子大学でこれほどの収益を出していることの凄さがわかる。





もともと女子大学は時代に取り残され、経営が厳しくなって共学化を行うところが増えていた。それでも同大学は女子大学として独立し、地方で頑張っている。
これだけ儲かっていたら、そらPCRセンターの1つや2つ余裕で作れるわけだ。

一方で、大学を見ていて少し思ったのだが・・・確かに貯蓄はあるし財務は良好である。でも、これだけ貯め込む必要ってある?と、少し思ってしまった。
同大学は偏差値が35~50程度である。女子大学はどこも相対的な地位が低下しているため、これは仕方ないのだろうが、もう少しうまく教育への投資ができたのでは、とも思う。
偏差値はお金で買えないが、それらを上げるための投資は何かしらもっとできたのではと。お茶の水女子大や東京女子大学が、往年に比べ落ちているとはいえ偏差値を高水準で保てているのは、きちんとそれらに投資してきた結果でもあるのかなとも感じる(偏差値等は財務的な見方のみで完結するものではないが)。
武庫川女子大学は10学部も擁するメガ女子大学である一方、一部学部で定員割れを起こしている。音楽学部が一番低く、90.0%だ。将来これらの学部が足を引っ張り、著しく財務に悪影響を及ぼす可能性は高い。
先ほど見てきたように、教育活動収支は2018・2019年と赤字を出してしまっている。いくら経常収支が黒字とはいえ、本業である教育活動収支で黒字を出すことが望ましいことは言うまでもない。
やはり何事もバランスだなと、同大学を調べて感じたのであった。




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このコロナ禍で、ただでさえ忙しい医療従事者の皆さんに感謝しつつ、この執筆を考えた。
大変な時に雇い主がどう扱ってくれるか、厳しく見たほうがいいよという話。

何かと話題の東京女子医科大学、ま~た世間を騒がしちゃいました。


※組合だより11/27参照
 

組合だよりによると、年末一時金が一律1.5か月分とのこと。夏季賞与はモメにモメて1か月分。当然昨年度実績を下回ってしまったようだ。



他大学の支給状態は下記のとおり。減額したのは順天堂大学のみだが、同大学は一律分のみカットで、そもそも3.2か月もの支給があるのだ。

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※組合だより11/27より抜粋
 
東京女子医科大学だけ異常に低いな。
医療従事者からすればそりゃそうだろう。これだけコロナで大変な目にあわされたら、賞与現状維持はあたりまえ、いやアップしてくれなきゃ困るだろう。疲弊した状態でさらにボーナスまで減らされる、そんなの考えただけでもつらい。
そもそもこの大学はボーナスをカットしなければいけないほど、財務状態は悪いのか、財務をみていきたい。

いつもは「教育活動資金収支」でみているが、今回の大学は数年でどうなる、というようなヤバイ大学ではないので、中長期的な視点で非資金科目等も入った事業活動収支上の「教育活動収支」「基本金組入前当年度収支差額」でみていく。
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同大学の特徴として、教育活動も全体の収支もそれなりに安定していることが特徴だ。
2016年の赤字から、それ以降なぜ黒字になれたかというと、人件費が2015年の43,506百万円から、2017年には3,9745百万円に激減しているからだ。何があったかわからないが、とにかく人件費を4,000百万円も削ったのだ。
また、同大学はここ数年、猛烈に施設設備支出と借入を行っている。施設設備支出と借入金残高を見ていく。
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借金は雪だるま式に増えている。
概して、全体の収支は悪くないが施設設備等投資のため黒字幅を圧縮、借入残高が増えこれが財務の赤信号となりつつある。
運用資産について、28,961百万円あるが、借入はもっとある。
積立率は一部数字が不明なため推定値であるが、30%台であろう(個人的には8割程度積んでおけば安心と考えている)。

本業は儲かっているのだから、無理に施設設備投資しなくとも・・・と思うが。いずれにせよ、人件費圧縮によって黒字が達成できていることは確かだ。
財政は良くもないが、それは事業収支上の話であって資金収支上はそれほど圧迫されていない。確かに人件費を抑えたい意図はわかるが、今やることかなとも思う。人件費抑える前に施設設備投資を抑えればいいわけですし。

同大学が学費の値上げを発表したが、これは今の財務状態であれば致し方ないかなと考えている。学生の質・偏差値を下げてでも、キャッシュを潤沢にする必要がある。

学費値上げにより、長期的な財務が悪化するなんて吹聴している医療ライター(?)がいたみたいだが、全くのウソ。詳細は下記記事を。


色々考えたが、同大学の財務は非常に難しい。良い状態と言えないのは確かだが、賞与は確保してあげる余裕はあるというのが個人的な考え。医療収入で潤沢な収入はあるのだし、学納金も間違いなく入ってくる。直ちに財務がどうこうなるような大学ではないので、そこはうまくバランスとって従業員に還元してほしいなというのが結論。
あんまり報酬関連でモメると、悪い噂だけが先行して、それだけで損ですよ。
それにしても借金の額が、日本医科大学に迫りつつある。



まとめ

  • 収支は安定しているが過度な借金と施設設備投資により長期的な財務は赤信号
  • 人件費をめちゃくちゃ削ることにより黒字達成
  • 学費値上げにより今後の財務はより安定的に推移することが見込まれる
  • 良い財務状態とは言えないが、この局面でボーナスをカットするような局面ではない

名古屋柳城女子大学という大学をご存じだろうか。僕は知らない(なかった)。

愛知県名古屋市にあるこども学部のみの大学で、2020年に設置されたばかりだ。もとは短期大学で、4年制に移行した。1953年に短期大学設置以降、細々と活動を続けてきた。ところが2020年に4年制開設の決定が財務に大きな悪影響を与える。詳しく見ていきたい。

言うまでもないが、この大学も定員未充足大学だ。1年目の入学定員70名に対し、入学者数35名と、充足率50%だ。2020年度からの大学なので、今のところ学生は35名しかいない。
また、短期大学の方も充足率7~8割程度であったため、なぜ4年制に移行して成功すると思ったかは不明(短期大学時代の入学定員は130名であった)。

4年制に移行すると、施設設備支出・人件費も上がる。経年変化を見ていこう。
まず、人件費は2016年の527百万円から602百万円に増加。施設設備費支出は79百万円から598百万円に増加。直近3年、500百万円程度の支出がある。


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名古屋柳城女子大学HP「情報公開」より
 https://www.ryujo-u.ac.jp/policy/disclosure.html

それでは収入は増えたのか、見ていく。
学納金収入は2016年の526百万円から2019年の454百万円に減少。大きな収入源である学納金・補助金ともに減少している。


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これら支出増・収入減に伴い運用資金はどうなったかをみていく。
特定資産は2016年の30百万円から2019年に20百万円に減少。現預金は1642百万円から765百万円に激減。

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その一方で負債は増えた。長期借入金は14百万円から234百万円へ。短期借入金も微増している。
確かに、大学の規模拡大のためには施設設備拡充が必要であるが、それはその分定員を充足できての問題。それができていないのであれば、ただ無駄に固定費が重くのしかかるだけである。


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運用資金は特定資産20百万円と有価証券150百万円、現預金756百万円の合計926百万円である。
2019年度決算では▲92百万円ほどの赤字であるから、おおよそ10年は耐えうる貯蓄をもっていることになる。
ただ個人的には、これからも赤字幅は増えていくと予想しているが・・・。

場所は名古屋市でそんなに悪い立地ではないんだけどね。
なんせ世の中には、すごい場所にキャンパスを置く大学があるのだから・・・。



あ…ありのまま 今、起こった事を話すぜ!
この少子化・キャンパス都心回帰の時代に、青森大学という大学が下北半島のむつ市というところに新しいキャンパスを設置するらしい。
な…何を言っているのか、わからねーと思うが、俺もわからねえ。



ちなみにむつ市というのはこの場所にある。



函館からの高速船通学を狙ってのキャンパス設置か・・・?
ちなみに青森大学は青森市にあり、むつ市と近いように見えるが100kmは離れている。
青森大学というとピンとこない方もいるかもしれないが、国立ではなく私立の大学だ。偽装留学生の大量除籍問題、といえばわかる人がいるかもしれない。

地方は過疎化や若者の流出問題を抱えているから、「大学がある」というのは大変なアドバンテージなのだ。そこに学生が集まるかどうかは関係ない、「大学がある」というのは本当に大きいのだ。
だから、設置してくれた大学に補助金を出す。設置する大学側も旨みがある。稚内北星学園大学はいい例だろう。ちなみに稚内北西大学大学は瀕死状態だが。



さてこの大学、新しいキャンパスを設置する体力はあるのか、財務をみていきたい。
特定資産は0、現預金960百万円、有価証券9百万円と、運用資産969百万円で若干不安。

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※青森山田学園「財務情報」より  https://aomori-yamada.jp/hp/wp-content/uploads/2020/06/2020%E8%A8%88%E7%AE%97%E6%9B%B8%E9%A1%9E.pdf

それより、がっつりと借入をしている。2020年3月末時点で3000百万円もの借入をしており、借入金利息支出を50百万円計上している。


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ここがほかのヤバイ大学より救いがあるのが、毎年教育活動収支・基本金組入前当年度収支差額で黒字を出しているところであろう。大学・専門学校・高等学校・中学校を一校ずつ、幼稚園を3つ擁している。
さすがに青森で私立の中高に行く人は少ないのか、中高部門では赤字を出しているが、その赤字分を吸い上げるように大学部門で黒字を出している。大学の収容定員は95%ほどで定員割れしているが、人件費等支出を低く抑えられているため、黒字を維持。
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概していうと、貯金は少ないけど定員割れしながらなんとか黒字出しているから、ぼちぼち借金返していかないといけないな、という局面だ。

その状態にありながらむつ市に新しいキャンパス建設。僕ならやらない。大学部門の起死回生を狙ってか、それを下北半島のむつ市で果たせるかは甚だ疑問だ。
ちなみにむつ市の最新の統計によると、18歳人口は544名であった。



また、記事によるとキャンパスは
下北文化会館を活用、学生は1学年20人ほど。文化会館で高等教育とは、オツですね!
ブログがいつか収益化できたら、取材という名目でこの文化会館に訪れたい。

その発表はあまりにも突然だった。文部科学省のホームページに、「認可取り消し」の文字が飛び出した。

「 「JAPAN e-Portfolio」の運営許可については、一般社団法人教育情報管理機構に対して「許可(条件付き)」していたところですが、…(中略)…審査等も踏まえて、文部科学省において運営許可要件を満たさないと判断したことから、令和2年8月7日付で許可を取り消すこととなりました。」

これは、要するに「債務超過で運営できませんのでやめまーす」というわけだ。JAPAN e-Portfolioの詳細は他サイトに譲るが、簡単にいえば調査書に書かれているような各種データをインターネット出願に連動させるためのシステムだ。

それではどういった財務状態だったのか、教育情報管理機構のHPに載っている2019年度決算報告をみていく。

まず、2020年3月末時点の貸借対照表だ。
資産の部は流動資産の現預金1,595千円のみ。
負債の部は流動負債(1年以内に返済しなければならない負債)が55,000千円と未払い消費税404千円と、いきなり53,806千円の債務超過。
こんなシンプルに債務超過出しているバランスシート、なかなか見られない滑稽なものだ。

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それでは一年間の活動の中で、どのように債務超過を出したのか、収支決算書を見てみよう。
まずは収入の部。
大きな収入を見込んでいた一般会費。予算の段階では60,000千円の収入を見込んでいたが、結果は6,800千円と、▲50,000千円以上もの乖離。
それに連動しデータ利用料も予算40,000千円から決算では5,000千円と35,000千円もの乖離。
そのほかも見てわかると思うが、とにかく予算で組んでいた見込みを決算で達成しているものが少ない。予算より多いものは、講演収入と連携開発費(なんだこれ)だけだ。
全体で152,561千円もの収入を見込んでいたが、結果はその半分にも満たない66,547千円。あまりにも予算の見通しが甘すぎる。

支出の部を見てみよう。システム運用経費を110,000千円で予算で組んでいたが、実績は55,000千円。注釈を見るに分割払いをしたようなので、あまりにも収支が合わなくて支払いを伸ばしてもらったのだろう。なんせ、消費税すら支払いが怪しいのだから。

これにより、2019年度決算は53,809千円の赤字でフィニッシュ。
結果として、50,000千円以上の負債と110,000千円かけて作った今後誰も使用しないシステムだけが残った。

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気になるのは、この負債誰が引き継ぐのかということだ。
同法人の定款によるとこう規定されている。

「第59条  この法人が公益認定の取消しの処分を受けた場合又は合併により法人が消滅する場合には、社員総会の決議を経て、公益目的取得財産残額に相当する額の財産を、当該公益認定の取消しの日又は当該合併の日から1カ月以内に、公益法人認定法第5条第17号に掲げる法人又は国若しくは地方公共団体に贈与するものとする。ただし、その権利義務を承継する法人が公益法人であるときを除く。」

わかりにくいが、要するに解散するときの財産(この場合負債)は国又は類似の事業をする法人(学校法人や独立行政法人等)に贈与することになっている。みたところ株式会社は引き継げなさそう。このシステム、どこに発注したかわからないが、この事業にかかわったベネッセは無傷で済んだわけだ。この負債、税金で処分したのかな?そのあたりの説明もすべきだと思うが、たぶんなかったことにされるだろう。

大学入試改革の深き闇…「Japan e-Portfolio」中止騒動がキナ臭すぎる
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75062?page=3

この記事によると、同機構はシステム運用をベネッセに「再委託」したらしい。

ベネッセさん、チョロイ顧客相手に儲かりましたね!

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