カテゴリ: 大学の財務

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティという機関をご存じであろうか。一時期は大学に昇格する予定であった、私塾だ。私塾といえど、あなどってはいけない。
場所は千葉県長生郡長生村という謎の村。周りには何もない。何もないところに豪奢な建物がポツンとあるのだ。





これである。どこの宮殿かと思うだろうが、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティなのだ。
こんな豪奢な建物、どうやってお金を捻出しているのだろうか。財務諸表を見ていきたい。

先に書いておくが、同学園の設立は平成20年、写真で見た建物の設立は2005年なので、当時またはその前の財務書類は参照できない。その当時に相当額のお金が動いたと思うがそれは追えない。公開してある平成24年以降の財務書類を見ることになる。

学校法人幸福の科学学園「財務情報」


同学園は2020年3月末時点の運用資産が特定資産504百万円、現預金7219百万円と、中高しか持たない学園にしては多いほうである。この規模に比べ、毎年恐ろしいほどの寄付金が入ってきている。2012年からの寄付金収入をみていきたい。

2012年: 6576百万円(施設:3592百万円)
2013年:11798百万円(施設:1909百万円)
2014年: 1181百万円(施設:8776百万円)
2015年: 2303百万円(施設:2542百万円)
2016年: 1145百万円(施設:  40百万円)
2017年:  857百万円(施設:  82百万円)
2018年: 1000百万円(施設: 100百万円)
2019年: 1112百万円(施設:  35百万円)

8年間で総額25972百万円もの寄付である。その寄付を何に使っているかというと、施設関係支出が目立つ。2012・2013年は大学の認可申請の直前であったため、また、関西に新しく中学高等学校を開設するため、特に多額だ。2016年以降は控えているみたいだが・・・。
おそらく、この私塾の建物を建てるときは、こんな金額では収まらなかったであろう。
ちなみに早稲田大学の2019年度の寄付金収入は2813百万円程だ。おそらく寄付募集にかかる経費や手間は早稲田大学の方が圧倒的にかかっているだろうから、驚くべき集金力だ(というか、幸福の科学の資金力)。

この学園も、寄付がなければ赤字となる。各年度の収入に占める寄付金の割合を見ていきたい。

2012年→64%
2013年→65%
2014年→4%(ただし、特定資産を7453百万円ほど切り崩している)
2015年→19%
2016年→15%
2017年→10%
2018年→11%
2019年→11%

このように、かなり寄付に頼った収益構造になっている。幸福の科学はこれだけお金をかけて、結局ハッピーサイエンスユニバーシティが大学認可にまで至らなかったことに何も感じていないのだろうか。
同学園は積極施設設備投資にもかかわらず、2015年を除きずっと黒字だ(寄付収入によるものが大きいからだが)。
開設予定だった学部は「人間幸福学部」「経営成功学部」「未来創造学部」「未来産業学部」であった。これをどう評価するかは皆さんにおまかせするが、そこらのヤバイ大学よりかは「財務的には」安定しているということになってしまう。2014年不認可、2020年認可取り下げとなった同学園。今後も申請し続けるのだろうか・・・。

2008年、福岡県みやま市瀬高町に1つの私立大学が誕生した。保健医療経営大学だ。保健医療経営学の学士が取れる日本唯一の大学という触れ込みであったが、開学以来定員を充足したことは一度もない。ちなみに初年度入学者数は27名であった。2013年に定員を150名から80名に変更、2015年には日本高等教育評価機構から「不適合」判定を受ける。
そして2019年5月、ついに2020年度より学生募集停止を発表。2023年に法人解散予定であることを発表した。

保健医療経営大学 学生募集停止のお知らせ

何がダメだったかというと定員を充足するほどの魅力がなかったのが問題だが、それに連動して財務もヤバイことになっていた。

2020年3月末時点での貸借対照表を見てみよう。
特定資産は当然0。現預金23百万円、有価証券なし。運用資産は23百万円の現預金のみだ。
2019年度は、全体の資金収支で▲221百万円もの赤字であった。これでは来年はやっていけないであろう。

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※保健医療経営大学「情報公開」より
 http://www.healthcare-m.ac.jp/university/finance/


ちなみに赤線が曲がっているように見えるが、線が曲がっているのではなく掲載されている計算書自体傾いているのだ。何を言っているか分からないかもしれないが、経営が危ない大学ほど、よくPDF写しを傾けて掲載するのだ。

2016年からの経年で、教育活動資金収支と全体の資金収支を見ていく(カッコは全体の資金収支)。

2016年:+66百万円(+45百万円)→2億円寄付により黒字
2017年:+93百万円(+71百万円)→2億円寄付により黒字
2018年:+112百万円(+91百万円)→3億円寄付により黒字
2019年:▲204百万円(▲221百万円)→寄付打ち切りにより赤字

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以上のように、寄付によりなんとか経営を維持していた。同大学の大元は、「社会医療法人雪の聖母会」というところであり、おそらく寄付のほとんどがこの医療法人から受け取っていたものであると推察できる。
ちなみに2018年度の教育活動資金収入における寄付の割合は65%という異常事態。

寄付金収入も「教育活動資金収入」に計上されるため、同大学は教育活動資金収支差額も黒字だったのだ。
しかも、2018年度末まで1350百万円もの借入を行っていたが、返済能力もないということで翌年度に債務免除。
医療法人からしたら、とんでもない赤字を垂れ流し続けた大学だった。

学校閉学まで残り2年ほど。医療法人からしたら、頼むからあと2年赤字幅を縮小してくれというのが本音だろう。なぜなら、赤字分補てんしなければならないのだから。

まとめ

  • ずっと収容定員未充足で、医療法人からの寄付でなんとかやっていけていた
  • その後も赤字続きでついに寄付打ち切り、債務残高も1350百万円あったが、返済能力がないということで債務免除

エリザベト音楽大学をエリザベス音楽大学だと勘違いし、エリザベド音楽大学なんだと思ったらエリザベト音楽大学だったくらい、音楽には疎い。
そんな自分でも、聞いたことがある音楽大学がある。上野学園大学だ。
盲目のピアニスト・辻井伸行氏を輩出した、あの大学だ。

そんな大学が2020年7月に突然、大学部門の学生募集停止を発表した。都内という恵まれた立地にありながら、1958年から続いた歴史は突然の終わりを告げた。



ちなみに短期大学と中学高等学校の募集は引き続きするそうだ。それにしても突然の募集停止、いったい何があったのか。
ホームページには

「少子化や社会情勢の大きな変化の中、様々な改善策を試みましたが、
大学部門の厳しい状況に変わりなく、募集停止に踏み切らざるを得なくなりました。」

とあるが、本当にそうなのか。財務からその内情をみていきたい。

先ず押さえておきたいが、上野学園大学はご多分に漏れず定員未充足大学だ。2020年度における学部収容定員充足率は50%と、ここ数年50%台で推移している。
2020年3月末の貸借対照表において、特定資産(積立貯金のようなもの)は122百万円、現預金221百万円と、事業規模に対して極端に少ない状態。その他有価証券を持っているかは不明。

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※上野学園大学「事業報告書・財務諸表」より
 https://www.uenogakuen.ac.jp/university/about/disclosure/report.html



2019年度決算において教育資金収支差額で▲184百万円も赤字を出しているので、現状の運用資産では借入や資産売却をしない限り、2年ともたないことになる。後述するが、同大学は過去4年でめちゃくちゃ大切な資産を売却しまくっている。
ちなみに全体の資金収支は48百万円の黒字となっているが、これは借入金収入430百万円があったからだ。

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2016年からの教育活動収支をみてみよう。
いつもは「資金収支」を見ているのだが、活動区分ごとの資金収支が公表されていないため、事業活動収支で見る。事業活動収支は、減価償却など非資金性のものも含む収支だ。
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以上のように、教育活動収支は4年連続赤字で、絶望的な状態だ。ちなみに2016年に全体の収支が黒字なのは、バッハの自筆楽譜を売却した収入があったからだ。
また、特定資産と現預金も合わせて350百万円ほどしかないため、これからも同水準の赤字が続けば、資金が尽きてしまう。

さらにこの4年で、資産売却も積極的に進めている。過去4年の資産売却収入をみていこう。

2016年:407百万円→草加土地やバッハ自筆楽譜売却等の資産売却
2017年: 43百万円→草加校地で保有していた資料の売却
2018年:112百万円→草加市に郊外型学園として使用していた校地・校舎を売却
2019年:0.25百万円→ピアノの売却

僕は音楽に詳しくないのだが、バッハ自筆楽譜って売却していいのだろうか。しかも草加校地の資料も売却してるし、何か大切なものを大きく失っている気がする。
ていうか、2019年のピアノ売却0.25百万円て。

こういった音楽大学にとって大切な資源を売却する局面である財務状況だから、大学部門は閉じざるを得なかったのだろうが、それにしてもあまりにもひどすぎる財務状況だ。まず、収容定員を充足する手立てははなかったのか。色々と疑問が残る大学部門の募集停止だ。
大学にある資産、とりわけ教育学術的な無形資産の継承は、こういった芸術界隈においても非常に慎重に行うべきである。この大学が開学以来培ってきた技術・人財といったものは、このずさんな経営で立ち消えることとなった。

ちなみに同大学は2016年に文科省に第三者委員会の設置を要請されていた。
その後設置された委員会によると、理事長ら石橋家への過剰報酬、身内で固めた株式会社への不透明な業務委託による利益相反等を報告している。
また、残業代未払いによる教職員組合との裁判があったり、法人に反旗を翻した教員を解雇したりと、色々と問題を起こしていた。





エリザベト音楽大学のように、きちんと貯金をして堅実経営をしていれば、こんなことにはならなかったのだが・・・。



まとめ

  • 上野学園はここ数年ずっと定員未充足で、2020年度学部充足率は50%
  • 赤字続きで、バッハの楽譜や校地校舎を売却するなど、苦しいお財布事情
  • おまけに運用資産は350百万円ほどしかなく、教育活動資金収支差額▲184百万円に対し、2年ともたないような運用資金状況
  • 2019年にピアノ売却して0.25百万円ゲット



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by カエレバ

松本歯科大学をご存じだろうか。僕は知らない(なかった)。
名前から連想する通り、長野県にある歯学部単科大学で、松本市よりは少し離れたところにある。


学部収容定員充足率が76%ほどで、そのうちなんと188名が留学生だ(在学生数が544名なので、およそ35%が留学生)。
別に留学生が多いからってなんてことはない。国際化に貢献しているし、留学生をいれてでも定員充足できてないのも、まあ仕方ない。

問題は財務だ。
参照できる一番古い2016年度財務書類によると、特定資産706百万円、現預金1,466百万円もあった。
そして教育資金収支差額(本業収支)は▲456百万円、全体の資金収支は▲242百万円となっていた。
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※松本歯科大学「情報公開」より
 https://www.mdu.ac.jp/outline/public_info/disclose.html


それが2019年度決算になると、特定資産106百万円、現預金679百万円と激減
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言うまでもなく運用資金は、現預金+特定資産+有価証券で構成される、重要な指標だ。 
なぜ、これほど激減したのか。2016年~2019年の教育活動資金収支と全体の資金収支をみてみよう(カッコは全体の資金収支)。

2016年:▲456百万円(▲242百万円)
2017年:▲327百万円(▲329百万円)
2018年:▲279百万円(▲271百万円)
2019年:▲ 95百万円(▲ 57百万円)

一見2019年度は収支が改善しているようにも見えるが、これは特定資産の各種積み立てを取り崩したことにより、見かけ上の資金収支が改善しているだけだ。
この4年間で、特定資産が600百万円も、現預金が800百万円も減ったのはこのためだ。施設設備等投資も重なったのも原因の一つだ。カッコの赤字分が実際に流出したキャッシュであり、この4年間で900百万円ほど減ったのだから、そりゃ特定資産の取り崩しが必要になる。
しかし気になるのは受取利息・配当金収入だ。2019年度は88百万円と、運用資金に対して10%ものインカムゲインがあった。一体どこにお金を預けているのだろうか・・・。

良く見積もっても、これからも毎年100百万円ほどの資金収支赤字が出るだろう。そう考えると、もってあと8年。その間、施設設備等を売却するだろうから、10年ちょっとはもつだろうが・・・、と個人的に見ている。
2020年度はコロナの影響で外国人留学生も減るだろうし、それにより定員充足率が減り補助金も減るだろうから、かなり困難な決算が予測される。
東京歯科大学は早めに合併を申し出た。松本歯科大学、さあどうする。というか、引き取ってくれるところはあるのか。

日本電産といえば誰もが知る世界的なモーターメーカ。そのCEOが永守重信氏だ。2018年に京都先端科学大学(当時の名は京都学園)の理事長に就き、200億円ほどの私財を投じる計画だそうだ。

私財200億円超…日本電産創業者の永守重信氏、相次ぎ寄付する理由


    しかしニュースで200億円という数字はよく見るが、本当に投じているのか?財務書類から見ていく。

    時をさかのぼって2016年の資金収支計算書をみてみよう。寄付金収入は27百万円ほどだった。

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    ※京都先端科学大学HP「財務情報」より
     https://www.kuas.ac.jp/about/info-disclosure/financial



    ところが2017年、寄付金収入は1,059百万円に跳ね上がる。当時の事業報告書には
    「在校生・保護者及び篤志家からの寄付金や寄付講座の開講寄付です。」
    とあるが、篤志家とは・・・。

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    そして2018年、寄付は加速する。2018年度決算において、寄付金収入は3,634百万円となった。ここまでくると、学納金収入4,282百万円に追いつくレベルだ。全体の収入に占める寄付金の割合は27%のにまでになり、貴重な収入源に。
    当時の事業報告書を見てみても、大学創立50周年のため、個人や企業等から集めたと記載。もう大部分を永守さんからもらったって書いちゃいなよ。

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    そして2019年、ついに寄付金収入は8,555百万円に。学納金4,309百万円を軽く超えた。収入に占める寄付金の割合は48%と、約半分が寄付金によって構成された収入構造となった。
    当時の事業報告書には、ついにこの記述が

    「京都太秦キャンパス南館建設が着工され、永守理事長よりの寄付金受入を行うとともに、取引企業や卒業生等に広く募集を行った。」

    永守氏から寄付金を受けていることを事業報告書に明記。

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    2017年~2019年度決算の3年間で、13,000百万円近くの寄付を集め、その相当割合は永守氏個人からのものと推察できる(本当の内訳はわかんないですけどね)。

    結論をいうと、永守氏はきちんと寄付をしていた。20,000百万円の寄付を表明しているようだが、それも今後数年で達成されるであろう。
    やはり学部を作るには、教員集めや校地校舎の取得でお金がかかるであろう。

    ちなみに同学園は、特定資産1,299百万円に現預金3,464百万円と、手元資金は規模にくらべあまりない。おまけに借入金が2,000百万円ほどあるので、少し長期的な財務はよろしくない。
    この財務体質ではおおよそ新学部を作る力なんてなかっただろうが、なんと永守氏個人の資金力で達成してしまった。
    校舎等を新築しているので、今までは寄付金で黒字を出していたが、寄付が途絶えたら減価償却費の増加で事業収支上は赤字が続きそう。
    新学部がどれほど稼いでくれるか、それによって同学園の命運が分かれる。

    また、永守氏は2030年を目途に、医学部構想を語っている。今年で76歳、まだまだ元気だ。

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