カテゴリ: 大学の財務

早稲田大学。言わずもがな名門大学だ。名門大学は、投資にも抜かりがない。

早稲田大学の2019年度決算における貸借対照表で「有価証券の時価情報」として、2020年3月末時点での情報が記載されている。2020年3月末といえばコロナ真っ只中、多くの大学が評価損を計上した時だ。早稲田大学はどうか。

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※早稲田大学HP「決算書関連情報」より
 https://www.waseda.jp/top/about/work/organizations/financial-affairs/financial-statements




ご覧の通り、このコロナ渦で30,909百万円もの含み益を出している。さらに、活動区分資金収支計算書をみると、受取利息・配当金収入は5,483百万円を計上。

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これはどのくらいのインパクトかというと、先般紹介した東京女子医科大学の学納金収入が4,714百万円であるため、それを軽く超えてしまっているレベルだ。 東京女子医科大学が汗水垂らしてうん千万円の広告費を使って集めた学納金を、早稲田は不労所得という形でゲットしている。

では、なぜこれほどまでに儲かるようになったのか。 早稲田大学は2018年から4〜5年かけて1億ドル相当の資金で、海外の未公開株などのリスク性の高い金融商品での資産運用を拡大することを発表。

早稲田大学が資産運用拡大で失敗しないための5つのポイント
※2018.1.10のDIAMONDオンラインより


当時は「今更運用規模拡大するなんて」「金融機関の餌食」などと叩かれていたが、結果は一目瞭然。早稲田大学の決算関係書類に詳細が記載されているので、それを参照してみる

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2018年、有価証券26,100百万円保有していたが、2019年には20,000百万円ほど増やし46,300百万円に。それに比例する形で、受取利息・配当金も2,440百万円から5,480百万円にジャンプアップ。
何より大きいのが、このコロナ禍でどこも含み損を出している中、約30%ほどの含み益を出している早稲田大学の凄みだ。

2018年に上記のとおり早稲田大学が積極運用を発表した際、多くの自称経済評論家が疑問を呈した記事を掲載。そのほとんどが的外れだったわけだ。




まとめ

  • このコロナ禍で有価証券で30%の含み益、5,000百万円もの利息・配当益を実現
  • 配当益はその辺の大学の学納金より大きい額
  • おそらく来年度決算はもっと結果出してる。 

2020年11月18日付でプレジデントオンラインに「東京女子医大のブランド力失墜で「早大医学部」誕生の現実味」という記事が掲載された。
全体といて医療ミスや学費値上げによる大学への批判であるが、この手の記事によくあるのが中途半端に財務情報を引き合いに出し経営危機であることを煽るやり方だ。
一つ一つ見ていきたい。

…こうした事故や不祥事の影響を受け、経営的にもボロボロな状態だ。2016~18年度は3年連続赤字で18年度は22億円の赤字。2020年のコロナ禍で経営状況はさらに厳しいものとなった。7月に「ボーナスなし」と発表したことを…

とあるが、この赤字が事業収支上か資金収支上かで変わってくる。
さらに「18年度は22億円の赤字」とあるが、正しくは「平成28年度に22億円の赤字」だ。
おそらく著者は、財政危機であることを引き合いに出したいと思いネットで検索。一番上に表示される週刊現代の記事「赤字22億円!名門・東京女子医大が「危機的状況」に陥っていた」の中の「平成28年に22億円の赤字」を2018年と読み違えたのだろうか。
ついでにいうと、3年連続赤字ではなく「基本金組入前当年度収支差額」は2018年度は4009百万円もの黒字だ。果たして著者が言うように、経営がボロボロの状態だろうか。 さらにこう続ける。
女子医大は今回の「学費1200万円値上げ」で短期的な経営状態は改善するかもしれないが、大学関係者によれば来年度の受験者数は減って、受験料収入は減り…

まず、学費値上げで経営状態は短期的ではなく長期的に改善するのだ。なぜなら将来にわたって6ヶ年分安定的に収容定員×人数分の学費が入ってくるからだ。 また、受験料収入は減る、とあるが、同大学の教育活動収入に占める手数料収入の割合は僅か0.2%だ。どう考えても、受験料収入など誤差にしかならず、それより同割合5%の学納金の方が重要である。
学費値上げで受験者数は減るので学生の質は下がってしまうだろうが、要するにお金をとるか学生の質をとるかの問題だ。

近年、ファクトチェックというのが重要視されているらしい。
ファクトチェックとは「社会に広がっている情報・ニュースや言説が事実に基づいているかどうかを調べ、そのプロセスを記事化して、正確な情報を人々と共有する」ものである。
学校法人に関する財務のファクトチェック、いくらでも請け負いますよ!

まとめ

  • 専門外の人が書く財務に関する指摘は大抵雰囲気で語っている


平成音楽大学は熊本県所在の、音楽単科大学。九州で唯一の「音楽単科大学」と称し、音楽学部のみで奮闘。しかし、収容定員充足率は51.3%と危機的な状況。それに伴い、財務も悪化。教育活動収支差額(本業での収支)は平成22年以来、ずっと赤字というミラクルを達成。

その大学が、ついにレッドゾーンに突入している。主に2019年度決算から、財務を紐解いていきたい。


充足率5割で財務状況は大丈夫なのか

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平成音楽大学HP「事業実績・財務データ」より https://www.heisei-music.ac.jp/information-disclosure.html 

明浄学院の場合もそうであったが、危機的な状態であっても平気で経年で分かりやすく財務状態を晒す。いったいどういう意図なのだろうか。
まず、流動資産を見ていくと、2015年の587百万円から2019年には169百万円に激減。2018年に1417百万円となっているが、これは熊本地震による罹災に対する一時的な収入なので、後述する。

流動資産の多くは現預金だと思われるが、そのほかに手元資金はあるのかを貸借対照表で見ていく。
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運用資金は特定資産168百万円と流動資産169百万円。おおよそ300百万円が運用資金となる。資金収支上、2019年度は45百万円のキャッシュ減(赤字)だ。単純に、この赤字が6年続けば資金がショートしてしまう。猶予期間は10年とない状態だ。


赤字でも校舎改築!起死回生の設備投資

このような学生も集められない財務が危機的な状態にある大学が、2017年から大型の建物の建て替えを行なっている。 同大学は2016年の熊本地震により被災。学舎がほとんど使えなくなるなど、甚大な被害を受けた。2017年〜2019年にかけて校舎等を新築。原資は熊本県からの「災害復旧費補助金」の1347百万円借入金」。平成30年決算でこの補助金と借入金200百万円に対し、1747百万円の施設関係支出を計上。

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どうせ学生が入らないのだから、最小限の施設で良いかと思うのだが、そこは平成22年からずっと赤字を出してきた大学だけあって、発想が違う。


では、これらの校舎に対する設備投資で入学者数は増えたのか。平成30年度入学者は定員100名に対し入学者47名。令和元年度は55名。令和2年度は46名と相変わらず低調。 97BD4A51-37A3-4C58-B93D-8F5345F085EF
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全く投資に見合った学生数増加は達成できていない。新入生は、豪奢な建物で本来の2分の1の人数で使えるのだからある意味お得であるが・・・。 豪華な設備は維持費もかかるので、将来的にこれが足を引っ張るのは目に見えている。

また、この大学はご丁寧にも各種財務指標の経年も掲載している。特に着目したいのは「運用資産余裕比率」だ。これは、運用資産から外部負債(借入金等)を差し引いた金額を、事業活動収支の経常支出で割った数値である。つまり、学校法人の一年間の経常的な支出に対してどの程度の運用資産が蓄積されているかを表す指標である。
平成27年度の184%から、令和元年度には▲27%までに減少。つまり、1年間の経常的な支出を賄えるほどの運用資産が無いことを示しており、非常に危険な状態だ。

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まとめ

  • 大学は平成22年以来ずっと教育活動収支差額(本業)で赤字を出し続けている
  • 熊本地震で被災。学舎がほぼ使えなくなるが、熊本県の補助金により校舎を一新
  • 校舎一新により起死回生を図るが、相変わらず収容定員充足率が5割程度
  • 毎年数千万円の赤字に対し、直近の手元資金は300百万円ほど。また、校舎建て替えに伴う大幅借入れにより財務はさらに悪化することが予想される。


大阪観光大学を運営する明浄学院。高等学校の明浄学院高等学校は1921年設立で歴史があるが、大学部門は1985年の短期大学設立、2000年に4年制移行と新しい。日本で唯一「観光大学」を冠している大学だ。その大学が2020年に突然、大阪地方裁判所に民事再生法の適用を申請した。その背景には何があるのか、財務面から追っていきたい。
明浄学院の財務状態について、ウィキペディアの「明浄学院事件」を引用しつつ見ていく。




大橋氏が就任前の明浄学院

ウィキペディアによると、
2016年春 - 元コンサルタント会社経営の大橋美枝子に対して、「プレサンスコーポレーション」の社長山岸忍が個人的に18億円を無担保で貸し付ける。18億円は、10億円が当時の理事長に又貸しされ、5億円が学院に寄付された。
2016年4月 - 大橋美枝子が副理事長に就任する。理事長を始め過半数の理事に自分の知人らを据えて実質的な経営権を握った。
個人から5億円をもらうほど、学院は困窮していたのか。5億円の寄付を受ける、2016年以前の財務をみていきたい。
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※明浄学院HP「事業実績・財務データ」より https://www.meijo.ac.jp/disclosure/

ご丁寧にも財務公開ページに経年比較のデータを掲載していた。普通、財務に自信がない法人はここまで丁寧に掲載しないが、ある意味潔いと言える。
2012年から2014年の経年を確認していく。学納金等は横ばいだが、その他の収入が激減(特定資産取り崩し収入など)。「その他の収入」の内訳は不明だが、同時期の貸借対照表の「その他固定資産」が2012年の455百万円から2014年には14百万円と、激減している。その中身の相当数は特定資産だと思われる。特定資産は将来の建物更新や退職金支給に備えて積み立てるものだが、収支が悪化しこの貯蓄を取り崩しせざるを得ない状態だったことが伺える(そして、2016年度頃には特定資産がほぼ枯渇)。
「翌年度繰越資金(その年度末に持っている手元資金明浄学院の場合実質的な運用資金)」は2012年の267百万円から2013年に251百万円、2014年に188百万円、2015年に106百万円と、急速に悪化していた。毎年数千万円規模の赤字が出ていたので、あと数年で資金ショートしてしまう事態に陥っていた。
そこで2016年に大橋元理事長による5億円もの寄付。これは財務が悪化しきっていた明浄学院にとって渡りに船だった。2016年の翌年度繰越資金は226百万円。
手元資金が寄付額きっちり5億円分増えていないのは一部特定資産(貯蓄)に繰り入れや赤字幅拡大によるものだろうが、いずれにせよ大橋元理事長の寄付により、手元資金は改善。これにより大橋氏は4月より副理事長に、理事会を知人らで固めるようになる。

5億円もの寄付をひっさげて大橋氏が理事長に就任、その後・・・

2017年7月6日 - (高校の)土地を売って得た手付金21億円を直ぐに仲介した不動産会社へ預け金として送金した。学院は校舎建て替えにあたり、土地の一部を32億円で売却することを決めた。その際、手付金として学院に21億円振り込まれたが、すぐに株式会社サン企画に預託
2017年6月には大橋氏が理事長に就いていたが、財務はどうか。
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2016年には5億もの寄付があったため財務は好転したが、2017年は元に戻り109百万円ものキャッシュ減少。この時点で現預金は247百万円から137百万円に。特定資産も12百万円しかなく、手元資金は150百万円ほどに。この赤字幅が続けば、2年ともたない危機的な状態にあった。
余談ではあるが資金収支上「預かり金収入」が2159百万円計上されている(ほぼ同額年度内に預け金として支出)。土地を売った着手金なのだから、本来は学院の収入となり財務は好転するはずであった。が、大橋氏の指示により他社へ預けることに。これが正常に学院の収入になっていれば、民事再生は当面逃れられた。そして大橋氏は、さらにやらかす。

2018年4月ごろ - 大学の運営資金1億円が理事会に無断で法人の関連会社へ送金され現金で引出された後、仮想通貨の購入に充てられたとみられる。購入した仮想通貨は、その後、ほとんど無価値となった(2019年6月で20万円程度)
個人的にここが一番サイコパスだと感じる。学院の手元資金は先程見たとおり、150百万円しかない状態だ。その状態にありながら100百万円を無断で理事会を通さず仮想通貨につっこんだ(しかも溶かした)。不祥事を起こした組織。通常であればすぐに発見し報告できるが、財務が困窮しているとそうはいかない。そしてその1年後・・・

2019年6月19日 - 仮想通貨に関す理事での話し合いが行われ「刑事事件になると学校が吹っ飛ぶ」「検察が動くとまずい」「助成金にも関わる」「私たちにも傷がつく」との意見から、解任や捜査機関への告訴は見送り、大橋理事長と仮想通貨を購入した理事が6月22日に辞任し6月19日以降は理事長の職務は行わない事で決着した。
ツッコミどころは満載だ。まず、刑事事件にならなくとも学校が吹っ飛ぶ財務状態であったし、「私たちにも傷がつく」とあるが、こんな状態にある学校の理事の時点でかなりの傷を負っている。
ただ、この事件が明るみに出れば学生募集、ひいては収入に大打撃を及ぼすことは間違いなかった。

2019年12月5日 - 大阪地検特捜部は、業務上横領の疑いで大橋美枝子ら5人を逮捕した。同特捜部は、明浄学院の経営を掌握するために調達した18億円の穴埋めのために21億円を着服したとみて捜査
2020年1月20日 - 一連の事件・不祥事を受け、日本私立学校振興・共済事業団は大阪観光大学に対し、2019年度の私立大学等経常費補助金(私学助成金)を全額交付しないことを決めた。
結局、大橋氏は捕まってしまう。また、本格的な入試が始まる直前であるため、最悪のタイミングであった。しかも、大事な収入の一部である補助金がカットされてしまう。2019年度の財務はどうだったか。 9CBBC091-C0AF-44A7-BFC3-98A9A8A59743
現預金は76百万円の減少。手元資金はついに100百万円を切り、63百万円に。しつこいようだが2017年度には109百万円の赤字を出している。収入内訳を見てみると、前年度422百万円あった補助金収入が180百万円にまで減少。それを埋め合わせをするかのように220百万円の借り入れを行なっている。そして2020年に入り、学院はついに民事再生法の申請を行う。

2020年3月16日 - 学校法人明浄学院は大阪地裁に民事再生法の適用を申請し、同日、保全管理命令を受けた。
また、32億円の土地売買契約は解消されたようだ。そもそも、明浄学院高等学校の土地は大阪市内にはあるが、32億円の価値があったかは不明である。
そして2020年、明浄学院は高等学校を学校法人藍野大学に運営権を譲渡大学は引き続き明浄学院が運営することとなった(麦島善光氏という個人の支援を受けながら)。学院は両方から20億円の支援を受けるとのことなので、これがキャッシュで入ってきた場合、当面のやりくりは問題ないといえる。
明浄学院は大学・高等学校別に収支を公表しているが、どちらもまんべんなく赤字を出しているようだ。ただし、高等学校は女子校であるため、改善の余地は大いにある。
以上、大橋氏が理事長に就くまでの流れから見てわかるとおり、そもそも学院は財務的に困窮状態にあった。そこに大橋氏が500百万円を引っさげて登場したものに食いついてしまったのが運の尽き。土地売買や仮想通貨への資金流入など、法人を私的に食い物とし、ボロボロの状態になってしまった。人間、困窮すると正常な判断ができなくなってししまう。そんな状態に寄ってくる人間は、まず疑った方が良い。
結果的に支援者が見つかった明浄学院。2020年度決算は好転していることを切に願う。

まとめ

  • 大橋氏に来る以前、2016年以前から学院の財務は危機的な状態にあった
  • 多額の寄付により大橋氏が実権を握り、高校の土地等を担保とした取引で不正をはたらく
  • おまけに学院のお金で仮想通貨取引。結果、学院の財務は危機的な状態なうえ、貴重な収入源である経常費補助金を打ち切られてしまう
  • 民事再生法申請後、支援者として高等学校に学校法人藍野大学が決定。大学は引き続き学院が運営

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