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この間公開した早慶Gマーチ日東駒専財務ランキング。苦労して集計した割にはそんなに伸びなかったので追考察。

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結論から言うと一位は東洋大学。高い収益性(経常収支が毎年50億円の黒字)と豊富な運用資産で見事1位となった。
しかし運用資産(現預金・特定資産・有価証券)が1,000億近くですよ。そんな貯め込む必要性ありますかね。もっと教育研究投資すれば良いのに。法人・財務部門が強いんでしょうね。
また、これだけお金があるのに運用にそれほど積極的でないのも気になりますね。2020年度の配当益は3億程度。保有している有価証券200億程度で、もうちょっとやり方があるのでは、と思います。

さて、50億円の黒字というのは事業活動収支上の話。これは、減価償却費だとか非資金性のものも含めた収支だ。
実際の資金収支上はどうか。「活動区分資金収支計算書」を見ると、「教育活動資金収支」が黒字であることがわかる。これは、いわば本業の資金収支上の流れだ。

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毎年100億円近く、本業では資金収支上ではお金を生み出しているのだ。
そこから設備投資やら預貯金の引き出しやらのキャッシュフローの中で、最終的な「支払資金の増減額」となるわけです。

2010年当時、東洋大学の運用資産は5~600億円程度でしたから、そこから順調にお金を貯めているようですね。まあどこの大学も同じような動きですが。
が、東洋大学の場合、2010年と2020年の学部収容定員、両方とも2万9000人で、変わってないんですよね。規模拡大で貯蓄の額が増えたのではなく、純粋にお金を貯めていただけという。

もっと大学としてジャンプアップするには、極端な人材投資だと思うんですけどね。まあ保守的なのが大学。別にリスク取る必要ないですもんね。

まあ結論を言うと、ワイの意見は


東洋大学、金使わなさスギィ!

です。

体育大学は全国でも珍しい。「スポーツ」の名門大学はポツポツと思い浮かべるだろうが、いずれも資金力豊富な総合大学だ(早稲田、青山、日本大学等・・・)。
そんな中でも、体育大学という単科大学で今でも奮闘している私立4大学がある。そう、日本体育大学、大阪体育大学、日本女子体育大学、東京女子体育大学だ。
この4大学、スポーツでの実績はなんとなくわかるが、財務はどうなのだろうか?これからも日本のスポーツ市場の活力となり得るこの4大学がいつまでも財務的に健全であってほしい、そういうった思いから集計を始めた。
今回も見ていく指標は①「運用資産余裕比率」②「経常収支差額比率(3か年)」③「固定負債構成比率」④「学部収容定員充足率(3か年)」の4つだ。
この4指標の点数を集計し、ABCDEでランク付けを行った。
各指標の数値は客観的なものであるが、ランク付けは主観が入っているのはご了承いただきたい。各評価の説明は以下のとおり。

A:極めて良好な状態
B:良好な状態
C:平均並み
D:不良な状態
E:極めて不良な状態

良好や不良といった評価は、芸術系学部という視点から、私学事業団が発行している財務データ「今日の私学財政」の全国平(2019年度決算)を参考につけていった。
それでは各指標のランキング発表といこう。



運用資産余裕比率(全国平均1.4%)

運用資産余裕比率は運用資産(現預金・特定資産等)から外部負債(借入金等)を差し引いた金額が、経常支出の何倍かを示す指標。要するに、経常的な支出(教育活動支出と活動外支出)に見合った貯蓄を行い過度な借金をしていないかを見る指標だ。経常支出に対して「何年分の純運用資産があるのか」といった見方だ。
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1位は東京都国立市にある東京女子体育大学。運用資産は12,026百万円と、日本女子体育の13,307百万円に迫る額だが、経常支出が日本女子体育の半分程度の2,410百万円のため、事業規模が小さい割に貯蓄がしっかりしている構造に。当然無借金。
2位は東京都世田谷区にある日本女子体育大学。運用資産は13,307百万円だが、経常支出も大きいため結果的に2位に。借入金もほとんどなく貯蓄もしっかりしているため、安泰。
3位は東京都世田谷区にある名門・日本体育大学。学生数が一番多く(6,485人)豊富な運用資産(14,850百万円)だが、借入金もがっつりしている(8,142百万円)ため、当比率は低迷。人件費比率は脅威の5割切り、48%と4大学中一番低い(体育学部50.9%)。 最下位は大阪府泉南郡にある大阪体育大学。唯一東京以外の私立体育大学だ。 運用資産は2,297百万円と一番少なく、それを上回る借入金3,674百万円があるため、債務超過に。このような財務状況な割に経常支出は4大学中2番目の6,073百万円と、スリム化できずにいる。人件費比率も4大学中一番高い58%と高止まり。


経常収支差額比率(3か年)

経常収支差額比率は経常的な収支(資産売却など臨時的な要素を除いたもの)に着目した指標だ。プラスが大きいほど収支の安定を示し、マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。
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1位はまたもや東京女子体育大学。先ほど見た通り事業規模が小さく、それに見合った支出をしているので毎年5~7%と、安定的な経常収支をみせている。
2位は同じくまたもや日本女子体育大学。東京女子体育大学と同じく収入に見合った支出となっているため、当比率は毎年4~6%と安定している。
3位は日本体育大学。当比率は毎年1~2%となっているが、前述の通り人件費は抑えられているため、人件費ではなく本業の教育活動に投資していると考えれば、理想的な数値か。ただし、安定的な財務のためもう少し経常収支改善を目指したい。
最下位はやっぱり大阪体育大学。人件費比率は年々落としているが、4大学中一番高いうえ、経常支出が高止まりしており当比率は毎年▲4~1%で推移。各種支出を抑えることが先決か。なお、今年度は辛うじて黒字化できたがそれまで4年間ずっと赤字だった。

固定負債構成比率

固定負債構成比率は固定負債の「総負債及び純資産の合計額」に占める構成割合で、主に長期的な債務の状況を評価するものだ。想定される固定負債として長期借入金と退職給与引当金が想定される。ここでは特に長期借入金に着目する。
借入の多さは直ちにネガティブな影響を及ぼさないが、こと体育単価大学に関しては今後の市場・事業規模縮小が予想されるため、過度な設備投資などの借り入れは今やるべきことではないと考えている。
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1位は東京女子体育大学。無借金のため同比率は低く抑えられている。
2位の日本女子体育大学の借入金も微々たるものなので、ほぼ同じポイント。
問題は全国平均を軽く超えてきた大阪体育大学。まず債務超過状態にあるのでいち早く借入金を返済して身軽になる必要がある。借入金利息15百万支払っているが、そんなもの払っている場合ではない。 借入金の中身を見ると青凌高校・中学校校地取得、校舎増築、校舎建設費用など。教育に対する投資は必要だが、実力に見合った額でやるべきだ。 こういった設備投資があるから経常収支差額が赤字なのでは?という問いの答えはノーだ。この大学、設備関係収支を除いた教育活動収支(本業)も本年度のみ辛うじて黒字、それ以前の4年間は赤字だ。

学部収容定員充足率(3か年)

最近どの大学も苦労している学部収容定員充足率。少子化の今、事業規模のレベルは適切にするべきだ。収容定員は事務的な手続きで下げることができても、人件費や施設設備は簡単にカットできない。カットするには大変な労力と時間がかかるのだ。それらを踏まえ、定員充足ができていない場合は、財務が安定している間にゆるやかに適正水準にしておく必要がある。財務がひっ迫している状態で急いで行っても、時すでに遅しなのだ。
同指標では100%以上は全てAとした。
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ようやく順位が入れ替わって1位は大阪体育大学で110.1%。2,917名の学生数で、安定して充足させている。「学生がいっぱいいる」というのが余裕につながり肥大化した支出を止められずにいるのか。
2位は日本女子体育大学で106%。 3位は日本体育大学で105.3%。学生数は6,485名と一番多い。 4位は東京女子体育大学で104.7%。学生数は1,568名と一番少ないが、安定して充足させているため問題なし。

まとめ(総合ランキング)

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1位は全てにおいてA評価の東京女子体育大学。事業規模に比べ豊富な運用資産と安定した経常収支でトップに輝いた。今後は大学の規模拡大か教育内容充実のための投資が望まれるが、毎年入試倍率が1倍程度のため、収容定員増は困難か。体育大学としての格をあげるため、余った運用資産をより優秀なスポーツ選手を集める手立てに使うことが必要だ。
2位は日本女子体育大学。東京女子体育大学と同じく事業規模に比べ豊富な運用資産と安定した経常収支。東京女子体育大学と違い学科によっては倍率が高いところもあるので、さらなる規模拡大が見込めるか。学生数も東京女子体育大学より多いため、潜在能力は高い。
3位は日本体育大学。借入金が多いため①③の指標で低迷し3位に。ただし、豊富な学生数と収入があるため、健全な借金ともいえる。スポーツの実績で言えばここが一番といえるので、財務を無視すれば、この借金や支出は賢明な投資といえるかもしれない(が、ここではあくまで財務ランキングなので低評価)。過度な借入は学校法人には馴染まない。
4位は大阪体育大学。運用資産余裕比率は4大学中唯一のマイナス。経常収支もマイナスで固定負債構成比率も高止まりしており、唯一の救いは豊富な学生数と充足率か。これが原因で赤字続きでも平気なのかもしれないが、そろそろ現実に気づいた方が良い。財務と向き合うべきだ。

まとめてきてわかったが、体育大学は4つしかないからか、収容定員はきちんと充足できている。が、女子体育大学以外の体育大学は財務に無頓着なのか、危なっかしい財務運営となっている。過去のように学生が降ってわいてくるような時代ではないので、きちんと貯蓄し本業以外の収益も見つけるべきだ。

美大・芸大の学園祭は面白い。なぜなら、皆が主体的かつ創造的に活動しているので、熱意がこちらにも伝わるからだ。この日のために培ってきたものを一斉に披露する。そんな場所、楽しくないわけがない。
芸術美術系の単科大学として奮闘している全国19大学。これら大学が、ずっとその地域で素敵な活動が続けられるよう、財務面で健全であってほしい。そんな思いから、すべての大学を洗い出しランク付けした。まあ、音楽大学ランキングの時と同様のことをやったということだ。
今回も見ていく指標は①「運用資産余裕比率」②「経常収支差額比率(3か年)」③「固定負債構成比率」④「学部収容定員充足率(3か年)」の4つだ。
この4指標の点数を集計し、ABCDEでランク付けを行った。
各指標の数値は客観的なものであるが、ランク付けは主観が入っているのはご了承いただきたい。各評価の説明は以下のとおり。

A:極めて良好な状態
B:良好な状態
C:平均並み
D:不良な状態
E:極めて不良な状態

良好や不良といった評価は、芸術系学部という視点から、私学事業団が発行している財務データ「今日の私学財政」の全国平(2018年度決算)を参考につけていった。
それでは各指標のランキング発表といこう。



運用資産余裕比率

運用資産余裕比率は運用資産(現預金・特定資産等)から外部負債(借入金等)を差し引いた金額が、経常支出の何倍かを示す指標。要するに、経常的な支出(教育活動支出と活動外支出)に見合った貯蓄を行い過度な借金をしていないかを見る指標だ。経常支出に対して「何年分の純運用資産があるのか」といった見方だ。
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1位は東京都八王子にある東京造形大学。事業規模が小さい割に特定資産等の積み立てをしっかり行っており、無借金経営なのも大きい。
2位は名門・多摩美術大学。無借金のうえ特定資産等の積み立てもしっかりで、死角なし。人件費比率(人件費/経常収入)は45%と低く抑えられており、固定費抑制にも余念がない(芸術系全国平均54.7%)。
下から二番目の倉敷芸術科学大学は法人全体の数値ではあるが、年々借入金が増加し財務をひっ迫。ここは例の加計学園グループの大学であり、これからも新学部新設でさらなる借り入れが予想される。設置大学の定員未充足も重なり特定資産は年々減少している。
最下位は滋賀にある成安造形大学。シンプルに運用資産が少なく借入もガッツリしてしまっているため負債が資産を超過でマイナスの数値に。滋賀で芸術は困難か。ただ、同大学は後述する収容定員充足・経常収支共に悪くないため、今後の立て直しが重要となる。
その他文星芸術・横浜美術共に特定資産が不足している割に借入もそれなりにあるため数値は低調している。


経常収支差額比率(3か年)

経常収支差額比率は経常的な収支(資産売却など臨時的な要素を除いたもの)に着目した指標だ。プラスが大きいほど収支の安定を示し、マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。
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1位は京都にある京都美術工芸大学。2012年開設の新設大学で、2017年開設の東山キャンパスは京都駅近くの立地の良さ。芸学部という1学部のみで事業規模は小さいながら毎年しっかりと経常収支黒字を出している。2018年には収容定員増加を行い、学納金収入は着実に増え続けている。実はこの大学、設置元は専門学校を運営する法人であり「京都建築大学校」という専門学校を今も開設している。個人的な話になるが京都の建築美に憧れ、大学生の頃にダブルスクールしようか迷ったほど、素敵な学舎と環境であった。それほど人を惹きつける大学なのだ(結局入学しなかったが)。
2位はまたもや京都の大学、京都芸術大学だ。聞き覚えある方もいるかと思うが、あのお騒がせ大学、元「京都造形大学」である。京都の名門美術大学・京都市立芸術大学を差し置いて「芸術大学」と改名したものだから、世間から非難を受けた。そんな大学でも経常収支はここ数年20%台で推移する好調さだ。
最下位は大阪芸術大学。経常収支はここ5年ずーっと赤字だ。収容定員充足率は安定しており学納金も高水準で安定しているが、それに勝る支出の大きさ。まだ貯蓄はあるため安心はできるが、早いところ支出を適正規模に戻す必要がある。運用益も毎年がっつり結果を出し、教育活動外収入で1,500~2,000百万円ほどの「受取利息・配当益収入」を出しているが、2019年度は当該収入が半分になり経常収支がさらに悪化。肥大化した各種支出のスリム化が課題だ。
下から二番目の宝塚大学は、宝塚と称しながら本部を宝塚に置くだけで、看護学部を大阪の中心街梅田に、芸術学部を東京新宿に置くしたたかさを持つ。大阪芸大と同じくここ5年間、経常収支は赤字のままだ。ただ宝塚大学は収容定員充足率も低く、毎年学納金は下がっていく一方。しかも学生数457名のうち、156名が留学生というヤバイ大学にありがちな学生構成。まずは定員を充足して教育活動収支を黒字化することが望まれる。
ちなみに同指標で「マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。」といったが、例えば最下位の大阪芸術大学は本業の教育活動資金収支で▲2300百万円ものキャッシュ減を出してしまっている一方、1位の京都美術工芸大学は同収支で1900百万円ものキャッシュ増を達成してしまっている。大阪芸大の方がお金持ちであることは確かだが、ブクブク太って生活レベルを落とせない富裕層みたいなもんだろうか、イメージ的には。


固定負債構成比率

固定負債構成比率は固定負債の「総負債及び純資産の合計額」に占める構成割合で、主に長期的な債務の状況を評価するものだ。想定される固定負債として長期借入金と退職給与引当金が想定される。ここでは特に長期借入金に着目する。
借入の多さは直ちにネガティブな影響を及ぼさないが、こと芸術・美術大学に関しては今後の市場・事業規模縮小が予想されるため、過度な設備投資などの借り入れは今やるべきことではないと考えている。
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1位はまたもや京都美術工芸大学。 同指標は無借金経営の大学が多いため総じて平均より良い数値を出す大学が多いが、問題は成安造形大学と倉敷芸術科学大学。特定資産等の貯蓄に比べ借金が多いため、運用資産余裕比率でもワースト1・2フィニッシュを決めている。施設設備等の投資のための借り入れであれば必ずしも借入が悪いというわけではないが、倉敷芸術科学大学については定員割れも起こしているため問題あり。他の設置大学も充足できておらず、財政悪化の火種があちらこちらにばら撒かれている状態。

学部収容定員充足率(3か年)

最近どの大学も苦労している学部収容定員充足率。少子化の今、事業規模のレベルは適切にするべきだ。収容定員は事務的な手続きで下げることができても、人件費や施設設備は簡単にカットできない。カットするには大変な労力と時間がかかるのだ。それらを踏まえ、定員充足ができていない場合は、財務が安定している間にゆるやかに適正水準にしておく必要がある。財務がひっ迫している状態で急いで行っても、時すでに遅しなのだ。
同指標では100%以上は全てAとした。
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1位は東京造形大学。東京五美大(多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、女子美術大学、日本大学藝術学部)と呼ばれているらしく、なるほどこの5大学は全て定員をしっかり充足させている。
2位は意外、成安造形大学。大津市から少し離れた、琵琶湖の湖南(?)という立地でありながら、800名ほどの収容定員をしっかり充足させているのは、地元に定着している証か。


なんなら3か年ではない最新の充足率は1.15倍を超えてしまっているため、少しやりすぎ感も。
最下位は京都精華大学。芸術学部・デザイン学部・マンガ学部・ポピューラーカルチャー学部・人文学部で構成されているが、肝心の芸術学部の充足率が55.8%。人文学部に至っては41.4%と大きく足を引っ張っている。おまけに所属教員がネット上でユーミンを誹謗中傷しそれが人気低下のとどめとなったか。



ただこの大学がすごいのは、これだけの充足率であっても経常収支をぎりぎり黒字で保てているところだ。各種支出の抑制で教育活動収支も安定。運用資産(貯蓄)もそこそこあるので、直ちにどうなる、という財務状態でもない。今後は看板のマンガ学部を中心とした立て直しが必要だ。
下から二番目は文星芸術大学。1999年設立で比較的後発の大学で、栃木県宇都宮市に所在。ここは充足率のみならず、運用資産余裕比率や経常収支も低迷しているため、このままではヤバイことになるのは目に見えている。宇都宮市民総出で応援する必要がある。冗談ではなく、意外とこういう地方の大学で財政危機のところは、すんなりと公立化したりする。大学はそれほど、地方にとってのステイタスなのだ。


まとめ(総合ランキング)

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1位はやっぱり、というべきか多摩美術大学。多摩美術大学が名門なことくらい、業界知識のない僕でもよくわかる。日芸の皆さんは、「多摩美があってなんで日芸がないんだよ!」とお怒りかもしれないが、ホームページ上に公開される財務諸表は法人全体のものであって日大芸術学部のものはもやは大きな日大の全体財務になってしまうのだ。さて、多摩美術大学は経常収支差額比率を除きすべて5点という強者。はっきり言って財務面では文句のつけようがないので、あとは美術大学としての格をさらにあげることか。
2位は我らが京都美術工芸大学。事業規模は他の大学に劣るが、各指標で総じて安定した良好さを示している。定員充足状況は97%という状態であるので、今後は100%超えで安定させ、収容定員増等さらなる事業規模拡大が期待される。それほど、貯蓄も経常収支も安定している状態にあるのだ。
3位の東京工芸大学は工学部もあるので一概に芸術単科大学といえないが、豊富な貯蓄と安定的な充足・経常収支で3位につけた。
6位の東北芸術工科大学は、山形という立地にありながら、2000人規模の収容定員を充足(約半分はデザイン工学部だが)させ経常収支も安定。地方でも芸術大学は成立する、を証明。
西の名門芸術大学、大阪芸術大学は豊富な運用資産ながら、途方もないくらいの経常収支の悪化と借入金の多さで9位に甘んじた。今後は緩やかに回復させていく必要がある。
名古屋芸術大学は名称からも名古屋を代表するかのような雰囲気を出しているが残念ながら総合評価はE。充足率が80%と安定せず、それに伴い経常収支も悪化。貯蓄もそれほど十分にあるわけではないので、早急な立て直しが必要だ。同じく名古屋の名古屋造形大学はほかの設置校(名古屋音大、桐朋大学)があるから規模の力で巻き返し。名古屋に芸大は2つも不要か。
最下位で平均点1点の倉敷芸術科学大学は他の設置校(岡山理科大、千葉商科、他専門学校等)があるので純粋な芸術大学の財務とはいえないが、倉敷芸術科学大学自体が充足率75.2%と低迷しているため、大学単体の収支も良くないと予想。他の設置校での改組・新設計画もあり今後も借入は増える見込み。厳しい財務状況は続く。
純粋な芸術大学での最下位は名古屋芸大・京都精華・文星芸術と既に述べた大学であるが、意外なのは横浜美術大学。もとは1966年設立の女子短期大学からはじまり、2010年に4年制に移行した。大学名称はかなりイケてるが、充足率は89.9%と低迷。貯蓄も少ないため、全体的な指標は低調。唯一救いがあるのは、経常収支で僅かながら黒字を出しているため、今後は定員を充足させ経常収支の黒字幅拡大と運用資産(貯蓄)の増加が期待される。


音楽単科大学のものと比べて感じたが、芸術・美術大学は定員割れを起こしても経常収支が黒字、というところが目立った。このあたりの検証はまた後日行うが、総じて財務危機大学がそれほど多くないな、という印象。個人的に危険だと思うのは倉敷芸術科学大学、名古屋芸術大学、宝塚大学、文星芸術大学くらいだろうか。なにより、経常収支が赤字の状態で貯蓄がないというのはかなり危険な状態なのだ。
立て直し策はシンプル。定員割れを起こしているなら充足させる方策を練るか、それが無理なら早めに損切して収容定員減を行い、各種支出減をいち早く行うことだ。それにより経常収支黒字を図り、なるべく運用資産(貯蓄)を増やす。
しかし組織というのはそう簡単に動かない。まだまだ学生は入ると思い収容定員はそのまま、首切りは困難で人件費は削れないので定員減も簡単ではない。施設の維持だってある、どこの大学の幹部も、良い時代を知っているからこそ、そう簡単には動けないのだ。
今後は学納金に依存しない、例えば運用益を拡大することも考える必要がある。本業が儲からないと割り切ることは、早めに気づくべきである。

今回の集計、19大学もあったものだからめーーーーちゃくちゃ疲れた・・・。
数が多かったのですべての大学に触れられなかったが・・・京都に私立美術・芸大大学多すぎない?(京都美術工芸・京都美術・嵯峨美術・京都精華)
これだけ書いても1銭にもならないが、個人的には得るものがあったような気もするので、やってよかった。今度はどこのカテゴリでランク付けしようかな。
音大版もよかったら見てくださいね。

音楽単科大学で頑張っている全国12大学。その財務健全性を測るため、4つの指標で5段階評価・点数化を行いランク付けをした。
ていく指標は①「運用資産余裕比率」②「経常収支差額比率(3か年)」③「固定負債構成比率」④「学部収容定員充足率(3か年)」の4つだ。
本当はもっと指標を加えたいところだが、非公表な数値があったりするのでこの4つで測っていく。最後に、この4指標の点数を集計し、ABCDEでランク付けを行った。
各指標の数値は客観的なものであるが、ランク付けは主観が入っているのはご了承いただきたい。各評価の説明は以下のとおり。

A:極めて良好な状態
B:良好な状態
C:平均並み
D:不良な状態
E:極めて不良な状態

良好や不良といった評価は、芸術系学部・音楽学部という視点から、私学事業団が発行している財務データ「今日の私学財政」の全国平(2018年度決算)を参考につけていった。




運用資産余裕比率

運用資産余裕比率は運用資産(現預金・特定資産等)から外部負債(借入金等)を差し引いた金額が、経常支出の何倍かを示す指標。要するに、経常的な支出(教育活動支出と活動外支出)に見合った貯蓄を行い過度な借金をしていないかを見る指標だ。経常支出に対して「何年分の純運用資産があるのか」といった見方だ。
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1位は堂々のエリザベト音楽大学。唯一の2ケタ台で、突出している。エリザベト音楽大学は事業規模が小さい(経常収入が少ない)割に、しっかりと積立ができており無借金経営のため、他の大学を大きく引き離した。身の丈にあった支出をしている一方できちんと貯蓄もしているというわけだ。
逆に平成音楽大学は同じく事業規模の小さい大学であるが毎年経常収支は赤字。収容定員充足率の低さもそうであるが、それ以外の収支も赤字続きのうえ積立も不足しているためこの結果に。新校舎建て替えにあたり借入したのも財務にネガティブな影響を与えた。
意外だったのが東京音楽大学。運用資産が少ないということもあるが、それに加え11,000百万円もの借入金が尾を引いている。どうやら2015年から設備投資に伴う大型の借り入れを行っているようだ。

経常収支差額比率(3か年)

経常収支差額比率は経常的な収支(資産売却など臨時的な要素を除いたもの)に着目した指標だ。プラスが大きいほど収支の安定を示し、マイナスが出ている場合、学校経営の根幹である経常的な収支で資金流出が起きている可能性がある。
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1位はまたもやエリザベト音楽大学。実はこの大学、教育活動収支は赤字が続いているのだが、特定資産で運用していると思われる配当益で、教育外収入として大きく稼いで経常収支を黒字にさせている。
経常収支が赤字のところが多いことからわかるように、音楽の単科大学で教育活動収支の黒字を出すのは困難なことなのだ(経常収支のほとんどは教育活動収支で決まる)。逆に言うと、名古屋音大、洗足音大、桐朋学園は教育活動収支のみで黒字を出しているため、本当の意味で本業の力が強い大学と言える。
最下位は東邦音楽大学。先にみたように積み立てはそこそこできているが、いかんせん経常収支で赤字を出しまくっている。後述するが、収容定員を6割切っているのが痛い。

固定負債構成比率

固定負債構成比率は固定負債の「総負債及び純資産の合計額」に占める構成割合で、主に長期的な債務の状況を評価するものだ。想定される固定負債として長期借入金と退職給与引当金が想定される。ここでは特に長期借入金に着目する。
借入の多さは直ちにネガティブな影響を及ぼさないが、こと音楽大学に関しては今後の市場・事業規模縮小が予想されるため、設備投資などの借り入れは今やるべきことではないと考えている。①の指標も借入が大きく影響を与えるため、大きく借入をしている東京音楽大学は不利となるが、あえてこの指標を入れた。
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1位は洗足学園音楽大学。先にみたように貯蓄も経常収支も安定しており、そもそも借入などする必要もない。
この指標はどの大学も安定して全国平均以下であったが、問題は東京音楽大学。創立111周年記念というなんとも中途半端な周年事業の際に、「中目黒・代官山キャンパス」を設立。



確かにすんげえキャンパスだ。この設備投資が吉と出るか凶と出るか。というか、経常収支は安定してないし貯蓄も少ないんだし、施設設備投資は控えるべきだと思うけどね。
本当はE評価としたいところだが、借入の内容が教育施設に対するもの、充足率を十分に満たし積極投資であることを加味しD評価に。

学部収容定員充足率(3か年)

最近どの大学も苦労している学部収容定員充足率。少子化の今、事業規模のレベルは適切にするべきだ。収容定員は事務的な手続きで下げることができても、人件費や施設設備は簡単にカットできない。カットするには大変な労力と時間がかかるのだ。それらを踏まえ、定員充足ができていない場合は、財務が安定している間にゆるやかに適正水準にしておく必要がある。財務がひっ迫している状態で急いで行っても、時すでに遅しなのだ。
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充足率第1位は堂々の東京音楽大学、学生数も1,383名となっている。これほど安定的に充足できているからこそ、積極的な借入と設備投資、という発想になるのだろう。これからどうなるかわからないが。
最下位は大学部門を閉じる予定の上野学園大学。下から2番目の平成音楽大学は立地が熊本ということもあり、今後も厳しい数値が予想される。新校舎設立で起死回生を狙ったが、泣かず飛ばす。収容定員400名に対し、なんと在学者205名という状態。ちなみに音楽大学と称しながらコッソリ子ども学科もある。こちらは充足率6割なのだが、肝心の音楽学科で42%と低調なのだ。


まとめ(総合ランキング)

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総合1位は洗足学園音楽大学。正直この大学、集計を始めるまで読み方がわからなかった。「せんぞく」と読むらしい。キリストの言葉「足洗えばなんちゃらかんちゃら」みたいなものから命名したようだ。充足率も貯蓄も経常収支も全てにおいて良好な状況であった。一つ注文するとすれば、これからも貯蓄を十分に行い死角の無いようにしたほうが良い。
2位のエリザベト音楽大学は洗足学園よりも尖った財務の好調さを見せたが充足率に問題あり。このまま充足しない状態で教育活動で赤字を出しながら教育外で収支を保つか、迷いどころ。いずれにせよ、十分な貯蓄があるため考える期間はいっぱいある。
逆に音楽オンチの僕でも良く聞く国立音楽大学・武蔵野音楽大学・昭和音楽大学は平均並みであった。いずれも貯蓄はそこそこできているのだが、いかんせん経常収支が安定せず。特に武蔵野音楽大学と国立音楽大学は定員を充足するのが専らの課題となる。
意外だったのが東京音楽大学。積極的な借入・設備投資が財務状況を悪化させている。定員を充足させているため投資は効果的と言えるが、経常収支で赤字を出し続けているので少しやりすぎ感。今後は収支の均衡を保ちながら貯蓄を行う必要がある(借金も返さないといけない)。点数は他のD評価大学より下だが、充足率を見るとかなり救いようがある。
落第生は上野学園大学と平成音楽大学。どちらもヤバイ大学として既に取り上げたため、結果は推して知るべし。特に平成音楽大学は全体的に問題を抱え、熊本という所在地がとどめを刺している。




概して、どの大学も全国平均と比べると苦戦しているようだ。特に、経常収支が赤字続きで定員を充足していないところが辛い。今後は音楽大学の定員・事業規模の縮小は必至だ。 集計していて感じたが、安定的な教育を行うには健全な財務が必要だということだ。エリザベト音楽大学は、定員も充足していないし教育活動収支も赤字だが、貯蓄をしっかり行い教育外で稼ぎ全体として健全な財務体制となっている。
逆に両方ともダメなところは、無理な資産売却や定員縮小・人件費削減を行い、それらが教育活動にも支障を来してしまっている。 それほど、財務と教育というのは密接に関係しているのだ。
今までは放っておいても学生が集まっていた時代であったから意識されなかった財務。これからの時代は、より重点的に見定める必要がある。なぜなら、潰れる大学はサービスの質が悪くて潰れているわけではない。財務が悪化し結果として潰れるのだ。大学が閉学に追い込まれ損を被るのは学生であり教職員だ。これ以上不幸な大学が1つでも減るように、厳しくチェックしていく。

こんな感じで進めた今回のランキング企画。各大学の財務資料PDFをひたすらコピペしていって計算したので、非常に疲れた・・・。
次はどこのカテゴリでランク付けしようかな。


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